見出し画像

なぜ人事評価制度は上手く作れないのか?

会社が評価制度を導入する理由としてよく上げられるのが、「社員のために評価制度を導入しよう」というものです。
この「社員のために」という考え方が落とし穴となり、機能していない評価制度を、私は組織コンサルタントという立場で、数多く見てきました。
今回は、「人事評価制度の作り方」をテーマに、人事評価構築時の落とし穴、評価制度の作り方のポイントについて解説していきます。


評価制度構築を社長に検討させるきっかけとなる社員の声

「私の給料はどうやったら上がるのでしょうか?あれだけ頑張ったのに・・・」
「なんで(能力の低い)あの人の方が、給料が高いのでしょうか?」

このような社員の発言を耳にした社長は、「うちの会社にもそろそろ評価制度が必要かもしれないなぁ・・・」と考え、評価制度導入を検討し始めることはよくある話しです。

社員のこのような発言を踏まえて、社長は、社員が納得できる、公平な評価を作りたいと考えるようになります。この「納得」と「公平」という評価制度構築の方向性が、機能しない評価制度を構築する際の落とし穴となります。

社員が納得する評価制度を作ろうとして・・・

「社員が納得する評価制度を作るためには、社員自身に目標を立てさせて、社員自らが立てた目標で評価することが望ましいだろう。」

このような考えの下、社員一人一人に自ら目標を立てさせ、出てきた目標をもとに評価を行う仕組みを構築している会社があります。

このような評価制度を運用している社長からは、以下のような悩みを聞くことがあります。
 
「社員が低い目標を設定するので、社員の目標の総和が会社が求める水準に達していない。だから全社の目標は未達成が続いている。」

「低い目標を許容している部門の評価が高くなり、会社への貢献度に応じた評価が出来ているとは思えない。」

「そもそも自身で目標を立てられない社員がいて、社長や上司が求めている成果とはズレた目標設定が行われている。」

社員の納得度を求めるあまり、社員自らに設定させた目標で評価する評価制度を運用し、会社の目標と社員の目標が合致しない状態を作ってしまうことがあります。

このようなケースの場合、社員は自らが立てた目標を達成しても、会社全体としては目標が達成できず、「社員は高い評価となったけれど、会社としては業績が上がらず、社員の処遇を上げる状態にならない」ということが発生し、逆に「目標達成したのに処遇が良くならないのはおかしいのではないか」と社員の不満につながることが起こります。

全社員に対して公平な評価制度を作ろうとして・・・

「社員が公平に評価できる評価制度を作るためには、全社員が共通の評価項目で評価されることが望ましい。」

このような考え方の下、「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」「責任感」「規律性」「積極性」といった抽象的かつ曖昧な項目を用いて、全部門共通の評価を行う企業があります。

このような評価制度は、評価項目が曖昧であるがゆえに評価する人によって評価にバラつきが生じます。
このバラつきを解消するため、評価するにあたり、「自己評価→上司の一次評価→社長や幹部の最終評価」と段階を経て行われ、結果として、評価基準が曖昧なまま、最後は、社長の匙加減で評価が決まる。

「自分はA評価だと思ったのに、なぜ上司はC評価を付けたのだろう」

「自分はA評価、上司もA評価なので、最終評価(社長)がC評価なのはおかしいのではないか」

「結局、社長が全社員の評価するのであれば何ための評価制度なのだろう」

と、これもまた、社員の不満につながることになります。

このように「納得」と「公平」を求めて、従業員のためを思って制作した評価制度が、社長が行きたい方向と社員が行きたい方向をバラバラにしてしまい、従業員の不満の源泉となることが多々あるのです。

評価制度を作る目的とは何か?

そもそも評価制度を作る目的とは何でしょうか。

社員の処遇を決める、社員の育成を促進する、社員を適切に配置する、等々、人によって評価制度を作る目的には様々な捉え方があります。

様々な目的をもって作られる評価制度ですが、大切なことは、組織のために評価制度があるのであって、評価制度は組織運営における道具の一つだということです。

では、そもそも会社組織は何のためにあるのでしょうか。
それは、一人では達成できない目標を集団で達成するためにあります。
 
一人では達成できない目標を複数の人間で分業し、分業して出した成果を調整・統合し、組織としての成果とすることが、組織が存在する理由となります。

組織を「分業と調整」という観点から見た時に、評価制度とは、「調整」の一手段であることが分かります。

会社を創業した当初、社員が少ない時は、社長が全ての社員の動きを把握できるため、調整としての評価制度の必要性は高くありません。現実には、明確な評価制度がなく、社長の独断と偏見で社員の処遇を決めている会社の方が、世の中には多いように感じます。

しかし、会社が成長し、社員の数が増えてくると、社長が全ての社員の動きを把握することが困難になり、社員がバラバラな方向に向かいだします。

このような事態を解消するため、「評価制度」を使って、社長が社員に向かって欲しい方向と、社員が向かいたい方向を合わせていくことが求められます。

社員一人一人が分業して出した成果を調整することが、評価制度が必要とされる理由なのです。

組織を運営するにあたり、バラバラな社員の動きを調整することが評価制度の役割であり、社員から見た制度の納得度や公平性を担保しようとするあまり、逆に社員の動きをバラバラにしてしまうような制度は、本来の目的から大きく外れたものと言わざるを得ません。 

評価制度の作り方のポイント

分業後の調整を行うこと、社長が社員に向かって欲しい方向と、社員が向かいたい方向を合わせていくことが評価制度の目的であるとするならば、作り方のポイントとして以下3点があげられます。

(1) 社長直下の社員から役割を固める
(2) 明確な評価基準で評価する
(3) 評価基準を定期的に見直す

それぞれの内容を見ていくと、

(1) 社長直下の社員から役割を決める
社員の数が増えてくると社長一人で見ることが出来る人数を超えてきますので、組織図を描き、中間にリーダーを配置し、組織の階層を作っていくこととなります。
会社は、分業と調整により、社長が目指す目標に向かうものだとすれば、まずは、社長直下の社員から求める評価基準を明らかにすべきです。
社長直下の社員に求める評価基準が決まったのであれば、その後に、直下の社員が管轄するチームメンバーに求める評価基準を決めていきます。
社長を起点に分業が始まる以上、社長を起点に評価基準を決めなければ、分業後の調整がなしえません。

(2) 明確な評価基準で評価する
評価制度は分業後の調整を目的とするため、社長が見ても社員が見ても、同じ評価になる明確な評価基準が求められます。
そのためには、評価基準を出来る限り明確に、理想としては定量的にすべきです。
   
(3) 評価基準を定期的に見直す
評価基準は、目標に向かうための分業後の調整機能の1つであると考えた場合、目標の変更や、目標を追いかける上での環境の変化に合わせて、評価基準を定期的に見直すことが求められます。
環境が変化する中で、調整のための評価基準が変化しないというのは有り得ない状態です。

ここで上げた3つ、「組織の目標を達成するための分業体制を見える化するために組織図を描き、社長に近い社員から、明確な評価基準を作り、この基準を定期的に見直していくこと」これが機能する評価制度を作る上でのポイントとなります。

このポイントを押さえた上で、公平性や納得性が必要であれば、ポイントを外さない前提でアレンジしていくことが、評価制度を作る上での原則となります。

まとめ

人は明確なゴールが認識できると、自分で考え、自走することが出来ます。
一方で、明確なゴールが認識出来ていないと、言われないと動かない、自分で考えない状態になりがちです。

評価基準を作ることは、一人ひとり異なる社員が、組織としての一つの目標達成に向けて、分業し、分業後のそれぞれのゴールを明確にすることに役立つものです。

人はそれぞれに異なる考え方や能力、知識、経験を持つがゆえに、適切に分業し、調整・統合することが出来れば、一人ではなしえない大きな成果を生み出すことが可能です。

一人ではなしえない大きな成果を生み出すための組織における「調整」の作業を評価制度が担っていることを忘れずに、分業体制に即した、明確な評価基準を、定期的に見直す仕組みの構築を行うことが、個人のポテンシャルの最大化、組織の成果の最大化につながるのではないでしょうか。

評価制度については、こちらの記事も参考として頂ければ幸いです。


よろしければサポートお願いします! いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!