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いびき

ただのいびきでありました。
よく騒ぐ夜であるので、
星を一つ、天から取って
その光を以て夜を照らすと
子等はみんな、寝てるのであります。

ただのいびきでありました。
夜鷹を呼んで晩酌でもどうかと
その翼ゆらゆらとはためき
此方には目もくれずに
静かに家族の待つ住処へ帰るのです。

ただのいびきでありました。
脅かす朝が眩しいので
新月を以てその光を少しだけ
陽の訪れを少しだけ
遅れさせてしまったのです。

ただのいびきでありました。
そこが喉であろうと、
高速道路であろうと、
手足や山際、天井や背もたれ
その何れであろうとも
ただのいびきでありました。

あの時の悲しみも、
棺の中で寝ている笑顔も、
火事に焼かれた家屋も、
石の下に眠る彼ら、全て
ただのいびきでありました。

やがては目を覚ます。
ある日、ふと
また出会うべく、ふと
だからその全ては
ただのいびきでありました。

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