夏たる条件

騒がしく響く蝉を
一匹、一匹、撃ち殺すと
驚くほど静かな夏を、
あなたは手にすることが出来る。
身近な幸福は手段は簡単に見えて
工程は驚くほど長い、
得てしてそういうものなのだろう。

木を一本、一本、切り倒せば
葉擦れの音すら締め出せる
その木に住む、生命も無論
眼下の土壌の一幅となる。

そうして孤独に囁いた雲の切れ間から
差し込む陽光はと言うと
姦しい程に眩しいと
相場が決まっている。
だからあなたはその隙間を
海のテープを持って埋めなければ
真の静観は得られまい。

拍動が、騒がしくなるにつれ
動悸が、激しくなるにつれ
感情が、顕になるにつれ
挙動が、大仰になるにつれ

あなたはあなたの喧騒にすら、
目を避けられないで
そればかり気を揉んで
静かに、なることでしょう

そうしたらまた蝉が鳴いて、
いつもの夏が
ようやっと訪れるのです。