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ドラッカーの教え/人の強みを生かす2

前回に続いて「人の強みを生かす」についてです。

 企業において最も難しくて、そして最も重要なこと、それが「人事」というものです。

 以前もご紹介しましたが、ドラッカーはすべての人事の中で、成功する人事は3分の1、成功でも失敗でもないのが3分の1、失敗が3分の1だといっています。

 マネジメントにとって「人事」はそれくらい難しいものです。

 基本的に人事とは、その人に成果を上げてもらうために行うものです。

しかし、人事には往々にして情実が絡んでくることがあります。

 「人に成果を上げさせるには、『自分とうまくいっているか』を考えてはならない。

『いかなる貢献ができるか』を問わなければならない。

『何ができないか』を考えてもならない。

『何を非常によくできるか』を考えなければならない。」(『経営者の条件』)

強みを持つ分野を探して、それを仕事に適用させなければならないというわけですが、現実には弱みに焦点を合わせた人事というのも頻繁に行われていないでしょうか。

「営業をやらせてみたけれどまったくダメだったから内勤の受注業務をやらせよう」

「受注ミスばかりするから物流センターに異動させよう」

これは実際に以前勤務していた会社で、実に何度も耳にしたフレーズです。

 その結果、偶然にも異動先で隠れた才能を開花させて予想外に貢献したという事例もありますが、基本的には「できないこと」から人事が出発しています。

 ドラッカーは同じ本の中で

 「弱みに焦点を合わせることは、人という資源の浪費である。

 濫用とまではいかなくても、誤用である。」

 と言っています。

 そして続けて

「弱みを意識して人事を行うことは、組織本来の機能に背く。

 組織とは、強みを成果に結びつけつつ、弱みを中和し無害化するための

 道具である。」

と説きます。

少し難しい言い回しですが、誰もが強みと同時に弱みを持っていて、そうした弱みを仕事や成果とは関係のない「単なる個人的な特徴」として捉え、強みだけを意味あるものとして組織を構築するべきだという教えです。

 では先ほどの事例のような人事はどうして起こるのでしょうか。

 それはその人事が「人の配置」ではなく「仕事の配置」として現れているからだと言います。

 ものの順序として仕事からスタートしてしまうので、その仕事に配置すべき人を探すときに

「そういえばあの部署に持て余した人材が一人いる」

「私の部署にいるこの人はここの仕事には向いていません」

ということが根拠となり、その人の本来の強みを深く探ることなく異動を行い、結果として最も不適格な人や無難な人を探すという誤った道をたどることになるのです。

 当然のことながら、その人事を受け入れた部署はいつまでたっても凡庸な組織にしかなりません。

 この場合、さらにひどいことに、受け入れ側がその人に合うように職務を構築し直してしまうということも起きます。

 「今度異動になってくる人はミスが多いらしいから、ミスが起きても誰かがカバーできるように仕事のやり方を組み立て直そう」

もはやこうなると、組織は情実となれ合いに向かい、優れた人は去るか意欲を失ってしまいます。

 すべては弱みからスタートした人事の結果です。

 さらに「自分とうまくいっているかを考えてはならない」とも指摘しています。

 これはかなり難しいのではないでしょうか。

 このパターンも何度も見てきました。

企業によってはこの「上司の感情」こそが人事のポイントになっている事例も多いのではないでしょうか。

 でもこのことは、度が過ぎてくるといずれ重大な結果として返ってきます。

 多くの社員たちにとって、人事とは他人ごとではなく同僚や上司の人事を見て自分の立ち位置と将来の姿を確認しているのです。

 当然、感情に基づく人事は誰の目にも明らかに映ります。

その結果、特に若くて仕事のできる社員から先に会社を去っていくことになるでしょう。

 ドラッカーは「経営者はなされるべきことをなすだけでよい」と教えていて、そのなされるべきことの重大な一つが「強みを生かす」ということなのだと思います。

 あなたは部下の強みをどうやって見つけ出していますか?

 

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