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遠野の町に芳公馬鹿(よしこうばか)といって三十五、六歳の白痴の男がいて、一昨年まで生きて…
遠野郷(とおのごう)は今の陸中上閉伊(かみへい)郡の西の半分、山々にて取り囲かこまれたる…
遠野の町は南北の川の落ち合ったところにある。以前は77里と言って、7つの渓谷それぞれの70里…
山奥には山人が住んでいる。栃内村和野の佐々木嘉兵衛と言う人は今も70歳過ぎて存命である。こ…
山口村の吉兵衛と言う家の主人、根子立と言う山に入って、笹を刈って束にして担いで立ち上がろ…
遠野郷より海岸の田之浜、吉里吉里などへ峠を越えるには、昔から笛吹峠と言う山道があった。山…
遠野郷では豪農のことを今でも長者と言う。青笹村大字糠前の長者の娘が突然いなくなって年月が経ったが、同じ村の某と言う漁師がある日山に入ってひとりの女に遭遇した。恐ろしくなってこれを撃とうとしたが「何おじさんじゃないか、撃たないで」と言う。驚いてよく見たらあの長者の愛娘だった。どうしてこんなところにいるのかと聞いたら、あるものに拐われて今はその妻となったと言う。子供もたくさん産んだけれど、みんな夫が食べてしまって、ひとりこのような感じでいると言う。自分は一生この地にいることになる
上郷村の民家の娘が栗を拾いに山に入ったまま帰ってこなかった。家の人たちは死んだと思って、…
黄昏時に家の外に出ている女や子供たちはよく神隠しに遭うのは他の地域と同じである。松崎村の…
菊池弥之助と言う老人は若い頃運搬業を仕事としていた。笛の名人なので夜通し馬を連れていく時…
この男はある奥山に入って、キノコを取ると言って小屋を作って泊まっているときに、深夜に遠い…
この女と言うのは母1人子1人の家で、嫁と姑の仲が悪かった。嫁はよく実家へ行って帰ってこなか…
土淵村山口に新田乙蔵と言う老人がいた。村の人は乙爺と言う。今は90歳近く病気をして死にかけ…
この老人は数十年の間山の中でひとりで住んでいた人である。良い家柄なのに若い頃財産を失ってから、社会とのつながりを断って、峠の上に小屋を作り、甘酒を往来の人に売って生計を立てていた。運搬業の人たちはこの翁を父親のように思って、親しんでいた。少し収入の余りがあれば街に降りてきて酒を飲む。赤毛布にで作った半纏を着て、赤い頭巾をかぶり、酔えば街の中を踊りながら帰ったりするが巡査も咎めない。いよいよ老衰してから、故郷に帰ってかわいそうな暮らしをしていた。子供はすべて北海道へ行き、翁ただ