遠野物語7

上郷村の民家の娘が栗を拾いに山に入ったまま帰ってこなかった。家の人たちは死んだと思って、女は娘が使っていた枕を形代にして葬式を行い、それから2 、3年が過ぎた。それからその村の者が猟で五葉山の麓近くに入った時、大きな岩が覆いかぶさって岩窟のようになったところで、思いもかけずこの娘にあった。互いに驚いて、何があってこんな山にいるのかと聞いたら山に入って恐ろしい人にさらわれて、こんなところに来てしまった。逃げて帰ろうと思ったのだけど少しの隙もないとのことであった。その人はどんな人なのだと聞いたら、普通の人間だとは思うけど、背がものすごく高く目の色も少し違うと思う。子供も何人か産んだけれど、自分に似ていないのは自分の子ではないと言って食べたり殺したり、みんなどこかへ連れ去ってしまったと言う。本当に我々と同じ人間なのかと聞いたら、服なども普通だけれど、ただ目の色が少し違う。一市間に1度か2度同じような人が4, 5人集まって、何か話をして、やがてどこかへ出て行ってしまう。食べ物など外から持ってくるのを見ると街にも出ているのだろう。かと言う中にも今そこに帰ってくるかもしれないと言うから、猟師も恐ろしくなって帰ったと言っていた。20年ぐらい昔の事かと思われる。

○一市間は遠野の町の市の日と、次の市の日の間である。月6回の市があるので、一市間はすなわち5日のことである。