遠野物語3

山奥には山人が住んでいる。栃内村和野の佐々木嘉兵衛と言う人は今も70歳過ぎて存命である。このおじいさんが若い頃に狩猟で山に入った時、遠くの岩の上に美しい女の人がいて、長い黒髪を櫛でとかしていた。不敵な男だったのですぐに銃をぶっぱなしたところ弾が当たって倒れた。駆けつけてみると背の高い女で、解いた黒髪はその身長よりも長かった。証拠にしようとその髪を少し切りとってそれを束ねて懐に入れ家に向かったが、途中すさまじい睡魔に襲われ、しばらく物陰に立ち寄って休むことにした。その間、夢と現との間にいるようになった。すると背の高い男がひとり近寄ってきて懐に手を入れ、さきほどの束ねた黒上を取り返して立ち去るのを見ると、すぐに眠気は覚めた。きっと山男だったのだろう。

○土淵村大字栃内