遠野物語12

土淵村山口に新田乙蔵と言う老人がいた。村の人は乙爺と言う。今は90歳近く病気をして死にかけている。歳が歳なので遠野郷の昔の話をよく知っていて、誰かに話しておきたいと口癖のように言うけれど、あまり臭いので立ち寄って聞こうとする人はいなかった。いろいろなところの館の主の伝記、家々の盛衰、昔からこの里で行われていた歌の数々を始めとして深山の伝説またはその奥に住んでいる人々の物語など、この老人が最もよく知っている。

○残念ながら、乙爺は明治42年の夏の初めにお亡くなりになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?