見出し画像

芥川賞受賞作 サンショウウオの四十九日/朝比奈秋

芥川賞が決まった。

一番気になっていたけど単行本は発売前、文芸誌が手に入らず読めなかった松永K三蔵さんのバリ山行と、唯一候補作で読んでいた朝比奈秋さんのサンショウウオの四十九日が受賞した。

松永K三蔵さんの小説は、新人賞をとったカメオも気になり続けてはいるが、単行本化されておらず、これまた掲載されている文芸誌も入手不可で読めていない。

一方、朝比奈秋さんは、あなたの燃える左手で以外はすべて読んでいて、どの作品で芥川賞を取っても異論のない、好きな小説家である。
私の盲端や植物少女はかなりぐっときたし、林芙美子賞をとったデビュー作の塩の道は渋いけどかなり地に足のついた緻密な小説だったと思う。
そして今回芥川賞初ノミネートのサンショウウオは、私的には朝比奈秋さん史上最高傑作と思っており、今年読んだ本の中でも1、2を争う良さだった。

心情に重きを置いて小説を読む方は、きっと私の盲端や植物少女の方が好みというかもしれない。サンショウウオの四十九日は、正直派手さはないと思う。大打撃のようなものもないと思う。ただ、個人的には、小説にそういう目に見える抑揚は必要ないと思っており、それより緻密に事実が綴られ、地を這うように粘度をもって描かれているかが大事だと思う。
サンショウウオの四十九日はそれを見事にやってのけていると思う。

設定も面白い。主人公は結合双生児で、しかも身体はおろか、頭もほぼ分かれおらず、ほぼ一人の人間のような見た目をしている。さらにその父親もまた、胎児内胎児で生まれた、滅多にないパターンで生誕している。こんな設定の小説は、医師である朝比奈さんにしか書けないと思う。
だが、仮に医師をやっていなくとも、また興味深い驚かされる小説をこの人は描けるのだろうとも思う。医師という職業はあくまでも環境的かつ後天的な要素であり、後からついてきたものだ。
無論、医師をしていなければ小説家になっていなかった可能性も全然考えられるが。

サンショウウオの話に戻る。特異な身体である主人公たちの生きる姿をひたすら綴り描き切ることで、却って普遍性が浮かんできたように思えた。我々人間の素朴な尊さを改めて考えた。明日もちゃんと生きようと思えたというか、結構毎日7割ネガティブなことが過る私だが、自分という身体を通して、人生をネガティブながらもちゃんと生きていなきゃなと思えた。

これはいわゆる当事者小説とは全然違うと思う。もっと普遍的にフラットに人間が描かれた、奥行きを感じる小説だった。

受賞会見もYouTubeで見たが、本当に自分のやるべきことをやったまで、といった具合で、朝比奈秋という小説家をますます好きになった。ぜひ。文芸誌を図書館で借りて読んだので、明日サンショウウオの四十九日の単行本を購入してこようと思います。改めて再読しよう。

ノミネート作が発表されてから受賞作発表までの一ヶ月で、芥川賞受賞予想の動画やらnote記事を上げるやつ、いつかやりたいけど、気分が何よりも重要な私の性分では難しい気がしている。
何かの間違いで全部候補作を読めて、且つ、何かの間違いでnoteをかく気力が沸いてくる必要がある。決定的な何かの間違いが2回も立て続けて起こる必要がある。たぶん無理だ。

人がかいた予想記事を読み漁るのは結構楽しい。今回もサンショウウオしか読んでないのに、ネタバレも厭わず、予想記事をバンバン読んだ。いや、候補作を読むべきなのはわかる。でも、人が本を読んで、そしてそれを個人個人で解釈して、受賞作を予想するというこの流れが、結構面白いのだ。

それでもまあ、何かの間違いが起こってとと戸の受賞予想記事が上がった際には、何卒よろしくお願い申し上げます。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?