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自分に置き換えて、考えれば分かる

(赤の他人の食事を作る・その2) 
 
 食事を作って届けているHさん。彼の数値が基準値からはみ出しているのは、血圧👆、血糖値👆、クレアチニン👆、eGFR👇。高いとよくないものが高くて、低いとよくないものが低い。eGFRは下がりすぎると透析だ。
 
 ぼくはHさんと一緒にいる時間が長いので、添加物のことをよく話す。もちろん自主的にではない。Hさんが聞いてくることに答えているだけだ。まぁでも、アツくなって話しすぎることは、ときおりある。
 
 Hさんはいくつかの病院で検査を受けているが、ぼくがしているような話は聞かないという。添加物や、外食、レトルト食品の害をだ。
 
「なんで検査結果を見て、言ってくれないんだろ?」
 
 Hさんが言う。「もうちょっと痩せましょう」とか、「塩分は控えめに」と注意される程度だという。
 
 「どうしてでしょうね」と、Hさんの疑問を流す手もある。しかし、料理を作っていることで思い入れも深まっていることだし、ぼくは本音を言う。「医者がそんなこと言うわけないじゃないですか!」と……。
 
「だって、病気直すのが仕事だろ」と、Hさん。いい人なのか、無頓着なのか。おそらく、両方だ。
 
 彼は同業者(豚モツ屋さん)なので、それに合わせて例える。相手の業種に合わせて話すのが、最も理解されやすい。
 
「ねぇHさん。我々の配達先(呑み屋)の中で、だらしない店ってあるじゃないですか。開店時間すぎに店を開けたり、メニューに欠品が多かったり。気ままに休んじゃったり、清潔にしてなかったり」
 
「うん。あるねぇ」
 
「配達に行って、そういう店の店主に、ちっとも繁盛しないって愚痴られたら、だらしないところを指摘しますか?」
 
「うーん……」
 
「こういうところを直せば、売り上げも変わってきますよって、言わないでしょ。通常は、まぁこのご時世ですからねって言葉濁しますよね。みんな苦しいですよって」
 
「まぁ、そうかな」
 
「でしょ。だらしない店って、言ったところで直らないし、ケンカになるだけですよね。そんな指摘を聞き取るくらいなら、自分でやってるでしょうし。それなら言葉濁して、まだお付き合い続けた方が賢いですよね」
 
「そうだろうな」
 
「我々の、だらしない店に対するそういった態度と、Hさんに対する医者の態度はおんなじです」
 
「きびしいなぁ」
 
 苦笑いするHさん。
 当たり前のことを言って「きびしいこと言う」と言われるのもイヤなものだが、ぼくはそこでは黙っていた。
 
「じゃあ、医者って言わないもんなのかぁ」
 
 Hさんがぼそっと言う。そして、
 
「医者って卑怯だな」
 
 と、続ける。
 
「そんなぁ。Hさんの数値の乱れは、医者じゃなくて自分がやったことですよ!」 と、ぼくは頭の中に言葉が浮かぶが、それを外に出さず押し込める。
 
「いや、人の身体は千差万別で、添加物や外食控えても確実によくなるかは分からないから、言えないですよ」
 
 その代わりに、こう言葉をぶつけた。
 
「でも、言ってもらいたかったなぁ」
 
 Hさん、またつぶやく。
 
「言ったら変わってたのか!? Hさん、言ったらヨーカドーもガストも日高屋もやめたのか!?」 と、ぼくは問いかけたかった。しかし、問いかけないで黙った。
 
 そして、
 
「また明日も、食事持ってきますよ」
 
 と言ってHさん宅をあとにした。

 


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