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東京大学2023年国語第1問 『仮面と身体』吉田憲司

 コロナ禍とはまったく関係ない問題文だが、仮面=マスクということからは、ひょっとして世相を若干でも意識した出題かという疑問が頭をかすめる。あるいはまた、仮面浪人ということばを思い起こした受験生もいたかもしれない。

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(一)「その意味で、仮面の探求は、人間のなかにある普遍的なもの、根源的なものの探求につながる可能性をもっている」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。
 傍線部アの主旨は明確であるため、「その意味で」の意味、つまり理由を丁寧に説明することが求められる。理由としてもっとも直接的なものとなる部分は、傍線部の直前の「相互に民族移動や文化の交流がおこったとは考えられない、遠く隔たった場所で酷似した現象がみとめられるというのは、やはり一定の条件のもとでの人類に普遍的な思考や行動のありかたのあらわれだと考えてよい」である。
 また、その前に「世界の仮面の文化を広くみわたして注目されるのは、仮面の造形や仮面の制作と使用を支える組織のありかたに大きな多様性がみられる一方で」とあるので、「形態が多様であること」も理由の前提となると考えられる。
 以上のことから「形態が多様な一方、民族的、文化的接点のない遠隔地同士で酷似した現象が認められる仮面は、人間の普遍的性質の探求の端緒となり得るということ。」(68字)という解答例ができる。

(二)「仮面は憑依を前提としなくなっても存続しうる」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。
 傍線部イの「存続しうる」は、単に「あり続けることができる」という意味ではなく、仮面としての機能を果たしうるという意味である。また、仮面の機能とは、第5段落にある「神や霊など、異界の力を可視化し、コントロールする装置である」ということである。
 傍線部のあとには、「その点で、仮面は決定的に霊媒と異なる。霊媒は憑依という信念が失われた瞬間、存立しえなくなる」とあるので、解答には憑依を前提とする霊媒との対比も盛りこむべきである。
 以上のことから、「憑依を前提とする霊媒と違い、仮面は憑依を伴わなくても、異界の力を可視化し、コントロールする装置としての機能を発揮し得るということ。」(65字)という解答例ができる。

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