AALTO(アアルト)のドキュメンタリー映画が時流に乗っててめっちゃよかった。

ひさしぶりに映画館で映画を観た。アアルト。
ぼくにとってアアルトとは建築家としてよりも、デザインスクールの方、Aalto universityの方。あぁ、地名ではなかったんだというのが最初の感想だった。

それで、映画の方なんだけれど、とてもよかった。3つくらいキーワードがあるなと思っている。激動の時代、ジェンダー(パートナーシップ)、生涯現役とかかな。

生誕125周年だそうだけれど、彼が活躍したのは第二次世界大戦の時期も含まれている。フィンランドに事務所を構え、デザインしたインテリアの納品先のロンドンはドイツの空襲により全消失してもいる。

自身も兵役についてるし、ソ連のフィンランド侵攻の時には従軍している。フィンランドはナチスの支援を受けていたしソ連と敵対していたから戦後のステータスは日本同様、敗戦国だったわけだけれど、アアルト個人はNYの国連本部の会議室の内装を手掛けていたりする。よほど、その時代で飛び抜けていたのだろうなと思う。

激動の時代を生きている。ナチスに招かれてドイツで講演だって行っている。すごいなと思う。そういうのでキャリアなり人生なりが台無しにならないんだなと、当人がどう思っていたのかは知らないけれど、映画では、あくまでも80年ほどの生涯の内の、ほんの数年のことというような扱いだったように思う。それが1つ。

次。ぼくはアアルトっていうのはポスターでもその通り、男性1人のことだと思っていた。建築家アルヴァ・アアルトのことだと。けれど、映画では彼の妻、アイノもフィーチャーされていた。むしろ、彼女の特異性が目立っていた。何が特異かって、彼女は1910年代後半、男性ばかりの建築学校の中で唯一の女学生として建築を修めいて建築士、デザイナーとなっている。女性の社会参加がーなんて声が上がってくるのは戦後だからかなり先んじている。そういう意識はなかっただろうけれど。

卒業後に、アルヴァとアイノは2人で事務所を構えた。表に出るのはアルヴァの方が多かったそうだけれど、仕事は分業というようなことはなく、2人であれこれ考えて作っていたらしい。実際、アイノの役割は非常に大きかったのだという。2人の間には2人の子どもが生まれ、建築家として母として多忙だったアイノは家政婦に家庭のことは任せていたらしい。

映画は、パリなど欧州各地に出張に行くアルヴァからのアイノに宛てた手紙のやり取りが多く盛り込まれている。手紙の中で、アルヴァは出張先でワンナイトを楽しんだよと火遊びを正直に告白していたり、それに嫉妬するアイノだったりが描かれている。いまのように気軽にメールなりチャットなりでやり取りできる時代ではない中でこうしたやり取りで関係を維持できているのは端的にすごいなと思う。

ドキュメンタリーだから、ちょっと調べればでてきてしまうことだから書くけれど、その愛するアイノが2人で行った旅行から戻ってきてしばらくして癌でなくなってしまう。54歳だった。軽い病気だと思っていたアルヴァはひどく落ち込んで、ともに多くの仕事手がけていたアメリカにも足を運ばなくなったという。アアルトとしての作品にはこれまですべて、アイノとアルヴァと2人の署名をしていたというのだから、空いた穴の大きさは計り知れない。その点において、この映画は2人の愛の物語だと言っても過言ではない。

そして、最後3つ目、生涯現役。
アイノの死後、仕事のペースもどっと落ちて隠居気味になっていたのを変えたのは後に妻となるエリッサという、これまたアイノの面影を感じる建築家の女性。彼女のアルヴァ・アアルトの物語における役割はここでは割愛する。ドキュメンタリーだからって何を言ってもいいわけではないだろうから。それで、アルヴァは教会、図書館や戦後復興期の規格化された公営住宅など多く手掛けていく。そしてレバノンの仕事を手掛けている途中に亡くなるのだけれど、保険局だかの「旦那さまは年金生活者でしたか?」という質問にエリッサはブチ切れたというのだから、そこにもプライドを持っていたのだろうなと思う。

昨今、FIRE(早期リタイア)が流行っているというか、憧れられているけれど、別に否定はしない。ぼくだって不労所得は欲しい。けれど、自分にとっての幸せってなんだろうとか、ちょっといろいろ考えた。

彼らの作品がどうとかは、ぼくはデザイナーでも建築士もないから語らないし語れないけれど、いい映画だった。




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