見出し画像

なぜ多くの人を起業へと向かわせる起業促進政策が悪手となるのか: Scott Shane

現職でポリシーメイキングはやらないだろうと思ってたんだけど、意外とやるし、なんなら結構参考にされるということがわかったので、いろいろ読んでいる。

その1つがこれ。
Why encouraging more people to become entrepreneurs is bad policy」という割と有名な論文というかエッセイ。

要旨

  • 典型的なスタートアップなんてやつはイノベーションなんて起こさないし、雇用も生まず、経済成長にも寄与しない。単に起業家を増やしたって意味がない。

  • 重要なのは、クオリティ高く高成長する会社を支援することで、こういう会社がイノベーションや雇用、社会に利益をもたらしている。

  • 行政にはその目利きはできないけれど、うまくいかなそうな会社の判断はできる。

  • 広く起業促進する補助金・助成金政策をやめれば、地域の新産業のパフォーマンスは上がる

この4つかなと。上から順番にいこう。

典型的なスタートアップなんてやつはイノベーションなんて起こさないし、雇用も生まず、経済成長にも寄与しない

身も蓋もない。というか、スタートアップの定義が結構広いんじゃないかと思う。自己資本250万円くらいでC向けのリテールとかサービス始める人たちと書いているので、新規創業者くらい幅広い。この定義の認識はぼくが普段仕事してる行政の人たちと近い。彼らは、新しく事業を始める人たちをスタートアップとしてる。(ちょっと前にワシントン州の人とスタートアップの定義について少し議論したけれど、彼らも明確な定義はわからんと言っていた)
で、このエッセイでは、典型的なスタートアップを、自己資本250万円でビジネスを始めて5年以内に1000万円の収入を得ることを目標としている事業者としてる。

そういう起業促進政策っていうのは、助成金や補助金、免税みたいなのになると思うんだけれど、そういうのにつられて起業する人たちっていうのは、良い企業に就職できなかった人たちだし、そういう人たちってつまりはあまり能力が高いとは言えないし、市場選定もカスだし、数年でつぶれるし、ほとんど雇用しないし、雇用しても平均以下の給料しかだせないし、福利厚生もほぼないと、データで示してる。基本的にはアメリカのデータを引用してるんだけれど、欧州やOECDのデータとも比較して他所でも状況は同じだと主張してる。

重要なのは、クオリティ高く高成長する会社を支援することで、こういう会社がイノベーションや雇用、社会に利益をもたらしている

まんべんなく平等に支援して新たな産業と雇用を生むことを狙う政策にはなっておらず、現実は、ほんの一握りの有望企業が大多数の新規雇用を生み、経済をけん引している。それらの会社はなんの役にも立たないお荷物の前述のスタートアップがつくった損失をも補填している。

行政にはその目利きはできないけれど、うまくいかなそうな会社の判断はできる

アメリカでは毎年200万社が新たに創業されている(2009年時点)。そのうち、820社がVCから資金調達している。データ上、VC出資を受けた会社は1,000万人の雇用を創出(全体の9.4%)し、180兆円の売上がある (2004年)。

これらほんの少数のVCから出資を受けた企業が、イノベーションをけん引し、雇用を生み、社会を前に進めているという認識を持たないといけない。

広く起業促進する補助金・助成金政策をやめれば、地域の新産業のパフォーマンスは上がる

つまり、起業したいという意欲のある人を平等に支援するのではなく、前述のようなごくごく一部の有能な企業に支援集中させた方が、社会はより発展できるということになる。

不平等に感じるかもしれないが、起業家というのは平等ではないという認識を持つ必要がある。なぜなら起業家支援とは社会を発展させることが目的であって、起業家としての人権も担保しないといけないものではないだから。

感想

このエッセイの最後、「で、これを読んだ行政の人は、良い政策をつくりたいわけ?それともポリコレ的に良いものがいいの?」という言葉で締めている。

非常にわかりやすいエッセイだと思う。VC調達してるってことは、そのVCのスクリーニングをクリアしてるわけだから、2-3年で異動のある門外漢な行政職でも対応できる。

で、荒れそうなポイントもよくわかる。underdogからは富める者がますます富む政策へ変更するように映るし、それはある意味で正しいし、既存企業の支援っていう文脈だと、既得権だけが得をしてるようにも見える。

実際は、VC出資受けてれば支援受けられるみたいな条件がつくだけで、機会の平等は保証されるような制度設計になると思うからそんなことはないんだけど。そこまで理解あって、熱意と気概ある職員が地方にどれだけいるか、というのは謎。

このエッセイ読んでてとても共感したし、あ~あれはそういうことだったのかー!的な感覚を多々持った。

次は、欧州のイノベーション創出政策の理論的支柱になったされる、マリアナ・マッツカートの企業としての国家を原著で読み進めることとする。





サポートはいつでもだれでも大歓迎です! もっと勉強して、得た知識をどんどんシェアしたいと思います。