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世界で一番おいしいチョコレートの作り方の本は社会課題に関心ある人はマジでおすすめ

半分写真集のような本なんだけれど、すごく良いです。この本は万人におすすめ。

なにが良いかっていうのはいくつかあるんですが、まずBean to bar というカルチャーはここ数年日本でも一般的になってきたものだと思います。ぼくの友人もやってます。

産地から直接カカオを買い付けてきて、産地特有の素材の味を活かしたチョコレートを自社工房でつくる、というもの。1つの産地から1つのブランドのチョコレートを作ることが多いですかね。シングルオリジンのコーヒーみたいに。

普通のスーパーやコンビニで売ってるものと違って、カカオと砂糖しか使ってないのにフルーティーな味がしたり、食感が違ったりするんですね。なぜそんなことになるかというと、カカオというのは産地や環境によって風味が変わるからなんですね。産地の風味を殺さないように現地で発酵とドライイングまでやるからなんですね。大手メーカーではそんなことはやっていないのです。

繊細で風味豊かで「こんな味するんだ」っていう小さなサプライズや気づきが多いので、ぼくも好きでよく買ってます。

で、こういうのってフェアトレードとかアグロフォレストリーとかの文脈で語られることが多いんですね。(協力隊関連で言うと、近々チョコレート隊員も新しい職種として生まれそうです。)

国際協力に片足を突っ込んでいる者としてではなく、イチ消費者としてそういったことは「ご苦労なことですね」と思いますが、結局気になるのはお値段です。フェアトレードだなんだと言うのは良いですけど、価格に納得できなければ消費者は買いませんし、十分な量の売上がないとフェアトレードなんて絵に描いた餅です。

そもそもぼくはフェアトレードを謳ってるものをあまり信用していません。値段増加分そのまま現地の生産者ではなくフェアトレード認証機関がぶんどっているだけのケースがあるんですね。あと以前、チョコバーのメーカーがプレスリリースで、ある認証を取得したのでエシカルです宣言したとき、その買取価格は市況の3分の1ほどだったりしたこともありました。

詳しくは上記の本を。なかなかいろいろ課題多くてしんどいです。

要するにフェアトレード認証機関とか中間業者を挟むからフェアトレード当初の思想が濁るんですよね、だったらこのご時世ネットで情報交換できるし、みんなスマホ持ってるんだから生産者と直接やりとりできるよね、という流れからサードウェーブコーヒーとか、こういうbean to bar のクラフト・ムーブメントがでてきたんじゃないかと思っています。

さて、話を戻すと、高尚な思想で高く売るのは良いけど、これ誰が買うのよ?問題は常にあります。

だってチョコレートなんてスーパーで100円とかそこらで売ってるのに、なんで10~20倍のお金を払わないといけないのか到底納得できないからです。フェアトレードだから?あんたら儲かっていいかもしれないけど、私(消費者)は儲かります?得します?何か良いことあります?100円でチョコレート買えるんですけど…の壁を越えないといけないんですね。

その壁を越えられないと、商品が十分売れないと、産地の人も儲からない、現地の人の生活レベルが上がりません。シンプルな理屈ですね。

で、本書はまず、値段の納得感を与えてくれます。

カカオの買い付けはいったいどんなところに行っているのか。

もちろん、単純に南米の地方へ飛行機で飛んでそこから車で数時間とかそんな単純な旅路ではありません。車が通れない川を徒歩で渡り、牛やロバに台車を引いてもらい、ボートで川を遡上しジャングルを分け入り…と何日もかけてやっと産地にたどり着くわけです。これは大変。

そしてその産地ではどんな風にカカオを育てているのか、どんな人たちがどんな風にカカオと生きているのかを教えてくれます。

アグロフォレストリーという農法で、カカオの農地ではカカオだけ植えているのではなく、様々な植物と共生させて育てています。これにより根が絡まり、カカオの風味に違いがでるのだとか。しかしそれにより、カカオの農地はぼくたちがイメージするような整備されたものではなく森、むしろジャングルの中のようになります。

…と、友人の話を聞いたりしてなまじ知ってるだけに延々と語れてしまうのだけど、それらのことを言葉で冗長に語って魅せるのではなく美しい写真と控えめなコメントでこれでもかと魅せてくれます。

この表現が絶妙でいやらしくないだけでなく、社会課題をさりげなく社会課題を教えてくれます。そして、どこにも「可哀想な人」が出てきません。あくまで、おいしいチョコレートをつくるためのチームの一員として描かれています。

「貧しい生活をしています、可哀想でしょ?買って支援してください」というマーケティングでないのが非常に好感が持てます。支援する側からの上から目線や、かわいそうだから品質は二の次でいいよね的な妥協がない。

産地の人の発酵とドライイングの技術力も求められる、まさにチームでチョコレートをつくってるという姿勢が見えて、現地の人の尊厳を傷つけてなくて良いですね。

ここにぼくはビジネスと開発の希望を見ています。儲かれば自然と社会課題の解決になるというモデルが。

後半ではカカオに関わる人たちのインタビューになっています。これも非常に良いです。

このトレンドが文化的に根付くためにはチョコレート1枚に20ドル以上の価値があると思える消費者が増えないといけません。
しかし、現実的に消費者を魅了している要素は、商品のストーリーです。この商品はこの国がルーツで、ユニークで特別といった要素です。その上に、おいしさを求めています。もちろん、おいしい基準は消費者の好みによって違います。結果的に最も重要な要素とは、魅力あるストーリーと、多くの消費者がおいしいと満足できる商品の多様性なのだと思います。
NGOはカカオ産業の活性化のため、われわれカカオ農家に多大な資金援助をしてくれていましたが、それでも状況はなかなか好転しないままでした。おそらく金銭よりも、従事する人々の気持ちや意識が低かったのが問題だったのだと思います。

ほんとに、写真集とインタビューなんだけれどフェアトレードの欺瞞であったり、NGOの支援で設置された太陽光発電機を売って生活費にしてしまう話であったり、幅広く社会課題にも触れられていて非常に良いです。



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