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これは欧州版7人の侍だ!「戦争の犬たち」

”ビジネスや恋愛においては何事も事前準備がたいせつ。その「段取り」に関して、舌をまく描写の連続です。喧嘩の仕方、ビジネスの戦い方に関する極上のアドバイス” by 広瀬隆雄(Market Hack)

40年ほど前のずいぶんと古い本だから絶版になっていて手に入れるのは苦労するだろうけれど、これは上質。内容は全く古びていない。最高。

アフリカの某国の採掘権を独占しようとするイギリス人富豪ジェームズ卿がクーデターを画策して、水面下で情報を集め、準備するのがだいたいの物語の流れなんだけど、引用の通り「段取り」の描写がほんとにすごい。おもしろい。勉強になる。スパイ系が好きなら、きれいごとなしで楽しめます。ドキドキする。

単純に物語としてはヨーロッパ版7人の侍という感じでしょうか。ジェームズ卿に雇われた5人の傭兵が主役なので。一方、スパイや権謀術数と読むなら、正義感に燃えるめんどくさいやつを抱き込むには誰を買収すればよいのか、計画の全容を知っている人間はどの程度に抑えておくべきか、失敗したときに足がつかないようにるする手立て…など唸ります。ここまでやるのか、こんな細かい描写も入れるのか、しかしそれがプロか!と。

物語の8割くらいがその「段取り」なんですよ。で、これ映画化もされてるんですね。もろ傭兵がジャケ写の。物語の8割が段取り話なんで派手なアクションなんてないんですよ。読書体験としては最高におもしろいけれど、派手な描写じゃない分、映像化に耐えないんじゃないかと思うんだけれどどうなんでしょう。でも読後は、あ、映画化できそうと思える不思議。

おれたちは契約によって戦う。どの契約を取るかは自分で決めるんだ

という傭兵の、契約した以上、両者合意した以上、疑問を持っても契約通りのことをやる職業意識というか美学が見える話でもありました。

極力ネタバレしたくないからあらすじにも触れたくないのですっごい抽象的で申し訳ないですが、ぜひ読んで欲しいです。

あと、訳者あとがきで衝撃の事実というか疑惑が述べられていてる点も注目です(個人的にめちゃくちゃ気になる部分ではあったのでを著者のエッセイを今読んでいます)。

舞台がアフリカとロンドンだけではなく、クーデターの「段取り」のためにフランスやルクセンブルク、スイス、スペイン、イタリア…と忙しくなく移動していて、ぼくらの言う「グローバル」を半世紀前から(ほんとはもっと前、大航海時代とかからだろうけれど…)体現していて、この国際感覚―どの言語でコミュニケーション取るのか、商慣習や接待はどうであるか…など―というか、国境をただの県境の如く越えてビジネスをして、それをなんら特別なことではないこととする感覚は、これから日本人は持つことになるんだろうなと思います。

彼は本能的な略奪者であるが、公的な立場からは尊重する必要があるが私的にはみな歯牙にもかけないというルールが存在することを、早くから認識していた。すなわち、これは政治の世界にも通用することだが、シティにはただ一つの戒律しかないということである。いわばその第11戒とは「汝、見つかるなかれ
必ずしも遅れているとは言えないと思いますよ。われわれだって幸運のお守りとか、聖骨とか、神のご加護とかいったものを半ば信じているじゃないですか。われわれはそれを宗教と呼び、彼らの場合を野蛮な迷信だと嘲笑するというわけですよ
ベトナムで戦ったGIたちは、人生のために、自由のために、幸福を追求するために、死んでいったと思うかい? 彼らはウォール街のダウ平均株価のために死んだのさ。いつの時代もそうだったんだ。ケニアで、キプロスで、アデンで死んだイギリスの兵隊だって同じことだ。彼らが神のため、国王陛下のため、祖国のために叫んで突撃していったと思うかね?彼らは上官の命令によって戦場に送られたんだ。そして上官は国防省の命令を受けていた。何のために?イギリスの経済支配を守るためさ。兵隊たちは、もともとそれらの土地の所有者である現地人を助けるために、戦いに行ったんじゃない。

「資源の呪い」とか現在まで続くアフリカの苦難を理解するのにも役立つかもしれません。

ここ2年近く、わたしは、あんたらジェームズ卿みたいな人間のために、50万から100万もの幼い子供たちが、飢えて死んでいくのを見てきた。根本的には、あんたのような人間が、邪悪な腐敗しきった独裁制を操って、より大きな利益を懐にするために、やったことなんだ。
しかもすべては、法と秩序の名において、合法性と制度上の規定を根拠にして、行われたんだ。

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