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今月読んだ本/2021.7

今月から大学院の英語補習コースが始まってその課題に追われて正直読書どころではなくなってしまっている。だからほんとに今月は本を読んだ印象がない。

大学院生にならんとしている今思うのは、普通の読書をしようにも「でもこれよんでも論文書けないしなぁ…」という考えがチラついて、だったら論文読んだ方がいいよねという価値観になりつつある。良いか悪いかはわからない。ただ事実としてそう思っている。

・父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話

洋書で読んだ。

著者はギリシャ人で、元財務大臣。えー、あの財政危機になった国の人の経済の話なんて聞く意味あるのかなと思ったのだけど、たしかに面白かった。というか、これはギリシャ人だからか、古代ギリシャの話を多く引っ張ってきているのが特徴的だったように思う。あと、表現がぼくが普段アメリカ人の英語読むことになれているからちょっと冗長に感じ、これが欧州エリートってやつなのか?と思ったりもした。

肝心の経済の話ももちろんおもしろい。特に今、先進国でも中流階級の没落が目立つようになっていて、それについての考察やAI時代の経済予測みたいなのもかなり理にかなっている。これはぼくらがなんとなく感じていることが巧みに言語化されている。別途noteを書きたいと思う。たぶん、ぼくが大学院で研究したいことと少し被ってくる。

最後に、AIを特定の個人や企業に独占させるんじゃなくて、集団レベルに帰属させて各々で利益を享受すべきだ(=そうすれば格差はなくなる)みたいなことを言ってるんだけど、このアイデア自体は結構聞く話ではあるんだけど、ぼくにはどうも机上の空論に聞こえて仕方ない。言わんとしてることも課題意識もわかるけれど、それって開発側にインセンティブがないんだもの。

あと、個人的にはマトリックスの話から欧米人(≒キリスト教的世界観の人たち)の価値観というか世界観が垣間見れた気がした。

As the only mammal endowed with the gifts of speech and reason, we consider ourselves to be demigods, masters of the Earth, and to have the ability to adapt our environment to our desires instead of our having to adapt to it. That's why we get flustered by the thought of a machine
(訳:神から言語能力と理性を授けられた唯一の哺乳類として、私たちは自分たちを半神あるいは地上の主人として、環境に適応するのではなく、自分たちの都合のように環境を適応させてきた。だから私たちは人工知能に動揺している)

この自分たちより賢い存在を認めないという姿勢が、その存在の可能性がでるだけで動揺するのかと、東洋的価値観でこういうのはないと思うので、おもしろいなぁと思うのだけど、この意識が根底にあるからこそ、欧米で描かれる人工知能系の映画って暴走で人類を危機に陥れるのかと。

日本だと代表的人工知能はドラえもんで、ずっと人間の友達だし、その他にしたって、ゲゲゲの鬼太郎やポケモン、ジブリ作品にしたって、人間の友達であろうとしてるし、そういう作品が人気で、つまりはそういう共存の考えが長く支持されてきている。

なるほどなぁと思うことの多い良書。売れる理由がわかる。


・完全教祖マニュアル

タイトルそのまま。新興宗教の教祖になるためのマニュアル。語り口がかなりカジュアルで、身も蓋もなくて非常に良い。すごい。語り口的に情報量が薄そうなのに、宗教現象というものを実践的かつ科学的で合理的に解説してくれている。

これは、結構教えたくない系の本だと思う。だって、この本のエッセンスってコミュニティ運営をするだとか、ブランディングだとか、人気YouTuberになりたいとかに応用できるものだと思うから。たぶん、みんな読んでる。名著。


・オーパ!by 開高健

1970年代後半にブラジルで釣りを楽しんだ人の紀行文。写真が良い。とにかく良い。著者はかなり有名な人なのだけれど、世代が違うからか名前こそ聞いたことあれ、どんな人かどんな文章を書く人かを知らないので「釣りを楽しんだ人」と表現したけれど、力強い言葉を使う人だったんだなという印象。そして1970年代後半という時代が、ブラジルに住む人たちが、アマゾンに住む人たちがどんな人たちだったかというのが文字や行間、写真から伝わってくるのも良い。

アヴォカド…珍品で一品である。西洋ナシに似た形をしたこの緑色の実にはねっとりとした果肉があり、森のチーズとか、何とか、呼ばれているが、これを丹念にすりつぶしたのをブイヨンでのばし、クリームをまぜ、よく冷やしたのを供されると、一匙舐めて、ムー、デキル!…とうめきたくなる。アマゾン河口のマラジョ島の牧場主の邸で供されたときには、内心、感嘆あるのみであった。玲瓏、精緻、豊満…
見たところ、この人たちは小さなことで声をあげて笑いころげ、悠々とし、私たちをとらえる、朦朧としているのに鋭い、あの、正体の知れない不安や焦燥に浸食されている気配はまったく見かけられないようであった。
同情はつねに軽視が含まれるといったプラトンに私はかねがね賛成している。
こういう瞬間、澄明であたたかい、キラキラ輝く潮が、澎湃とさしてきて、全身にみなぎり、自我が肩からのびのびと揮発していく。ハイネは、遊んでいるときだけ男は彼自身になれると、いった。ニーチェは、男が熱中できるのは遊びと危機の二つだけだと、いった。

ハードボイルドな文章はぼくは好きなので、レイモンドチャンドラーとか読む人ならとても好きだと思う。


・第三惑星用心棒

SFマンガ。自立起動ロボットを用いた世界戦争から数世紀後の世界で、戦争の時にコントロール不能になって行方不明になって彷徨っているロボットや、バグでロストしてしまった接客ロボットなどを回収していく話。

自立起動なのでAIの話ではあるんだけど、なんというか、AIが普及したらこういうことも起こってしまうかと思わされる感じがあり、こういうのって現代でいうところの不発弾みたいなものかと想像しやすかったりもした。

攻殻機動隊的な派手な戦闘やハッキングの描写はないけれど、オンラインミーティングもの描写などひょっとすると近い将来作中にでてくるように3D化、あるいはVR化するのかなと思ったりもした。


・琥珀の夢で酔いましょう

クラフトビールのマンガ。クラフトビールのマンガといっても専門知識どっさりのものではなくてあくまでも物語重視というか、社会人の遅れてきた青春ぽさがあるストーリーがメイン。

本筋とは大きくそれるけれど、こういうクラフト○○のムーブメントには結構注目している。どうもコモディティ化(ビールだったら1缶だいたい300円くらいかなという消費者イメージ)から逃れて独自性というか個性を出して自由な値付けで生き残りを図ろうとするこの小規模事業者の策があらゆる商品カテゴリーに広がっている気がするから。それはつまり汎用性があるということなのではないかと思っているから。

クラフトビール、スペシャリティコーヒー、ビーントゥバーチョコレート、クラフトコーラ/サイダー、オーガニック野菜…ぱっと思いつくだけでこれだけでてくる。(オーダーメイド系の寝具もそうかな)

大企業が決めた値付けっていうのは、大企業だからこそできる莫大な量の生産、販売という効率化の極致の値付けであって、小規模事業者が同じ値段で販売しようとするとなかなか採算が合わなかったりする。

めちゃくちゃ原材料にこだわって作っているので、生産量は〇〇だけしかありません、みたいな謳い文句でブランド化して一般的なものの倍くらいの価格で売っている。

これはそれが認められる土壌がある≒需要がある≒実際に欲しいと思って買っている消費者が多いということなので、それはかなり特異な状況なのでは?と思ったりもする。

次のクラフト○○のヒントは、市場にそこそこの品質で安い価格の商品が広く流通しているが消費者はその商品の品質に決して満足しているわけではないという商品カテゴリーということになるのかな。



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