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今月読んだ本/2020.9

以前に参加したとある勉強会で、「新しいものに可能性を感じるためには新しいもの(自分が知らないこと)に触れないといけないですよね、新しい概念を増やす努力しないといけない」と登壇者の人が言っていて、大きな感銘を受けた。

ぼくが日々黙々と本を読むのも自分が知らないことを知るためだから。もちろん、単に読書が好きというのもあるけれど、これは後天的に手に入れたもので、もともと本好きだったわけではない。もっといろんなことを知りたくて、勉強したくて、習慣化させた末に好きになったから。

というわけで、経済的な見返りがあるかどうかはわからないけれど、色んな人生を疑似体験できたり、新しい概念に触れることができる読書はきっとみなさんの人生をきっと豊かにしますよ、という話。

今月はわりと時間が取れたのもあっていろんな本を読んだし、多ジャンルに手を出したような気がする。

今月はとりあえず5冊を紹介。

それでは、はりきってどーぞ!

・東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!

少しばかり高度なデータ分析をするために統計の勉強をしないといけない。微分・積分を理解できないといけない。そもそもぼくの数学レベルは中学で挫折したままになっている。

賢い人が昔ぼくに、「勉強をし直すのはいいけど、わからないところまでしっかり戻ってやらないと結局遠回りになるよ」と言った。そんな悠長なことを言ってる場合じゃないんだよ、ばかやろうと思ってその業界の入門書的なを何度か手に取ったけどさっぱりわからなかった。結局、基礎がないんだからいくら高度なことを積み上げようとしたって砂上の楼閣に過ぎないんだと身を持って知った。

そんなわけで、データ分析の実務的なことをやりつつではあるけれど、もっと高度なことがやりたくて統計の知識を深めたくて、挫折した中学数学に戻ってきた。

本書は、ただ問題を解いたり解き方を丁寧に解説してくれるドリル的なものではなく、どんな風に数学に向き合うのか中学レベルの数学とは何か、ルートってなにかなど、xやyの記号をなんのためにどうとらえるのか、というのを噛み砕いて教えてくれるので大変わかりよく良い。

中1のときのこの本があって、読んでいればぼくの人生は結構変わっていただろうなと思う。


・働きたくないイタチと言葉のわかるロボット-人工知能から考える「人と言葉」-

ちょっと久しぶりにこの手の本を読んだ。いわゆるAI系。特に最近はAGI(Artificial General Intelligence 統合型人工知能)の出現も近いのでは⁉なんて言われたりする。なので一般教養として、機械はどう音声を認識してどうパターン化して音を出力して、会話してるっぽい状況をつくっているのかという仕組みを知っておくのは大事。

その過程で、そもそも会話してるってどういうことよ?相手の言ってることに対して「ふむふむ、それで?」「大変でしたね」「さすが」「信じられない」「すごいですね」「世界とれますよ」「尊敬します」みたいな相づちは、人間でさえ相手の言ってることを本当に理解して発してる言葉なのか?そもそも理解するとは??という人工知能を実装していく過程で人間理解も同時にしていく(というかそれが避けられない)。

例えば、「白いイタチの家で買ってきたケーキを食べた」という文があるとする。これに、白いのはイタチですか?家ですか?ケーキはどこで食べましたか?どこで買ってきましたか?なんて質問をすると、どっちにも解釈できてしまう。

これは人間なら、それまでの社会常識があればその場その場で正しい文脈を読み取る。「白いイタチの家」というケーキ屋が駅前にあるからそこで買ったんだな、みたいな。

昔流行ったジョークに、妻がプログラマの夫に「買い物に行って牛乳を1つ買ってきてちょうだい。卵があったら6つお願い」という簡単なお願いをしたら、夫は牛乳を6本買ってきた. というのがあるけれど、それと同じ話だなと。

プログラミングをやったことなければ、素直に牛乳1本と卵6個買ってくるし、今読んでるあなたもそうだろう。

If(eggs) then {
  &buy(6 milks)
} else {
  &buy(1 milk)
}

プログラミングでif構文だとたぶんこう書くと思うんだけど、これは英語でIf...then~(もし...だったら~しろ)となる。つまり上記の妻の命令を「基本は牛乳1本だけど、もし卵を見たら6本牛乳を買ってくる」と解釈したわけだ。機械語というかプログラミングってなんていうか、きっちり丁寧になにをしてほしいか定義して命令しないといけないわけだけど、それを皮肉った見事ジョーク。そういう、なんというか文脈とか常識とかそんなことを機械にどうやって教えるんだ?どう定義すればいいんだと考えるのは楽しい。

本書はかなり噛み砕いて書いてくれているのでわかりやすいし、どこがコンピュータに物事を教えるときに難しいのか課題なのかがわかってよい。

AIをめぐる諸問題を知りたいならそれらを満遍なく取り扱った「人間様お断り-人工知能時代の経済と労働の手引き-」がベスト。もうすでに問題になっていること、これから起こりそうなことが非常に読み易いエッセイになってる。

で、人間理解の方にベクトルを向けたいのなら、読書つまりは人間が文字を認識するときに脳で何が起こっているのか解き明かさんとするプルーストとイカ-読書は脳をどのように変えるのか-が抜群におもしろい。ちょっと難しいけれど。

で、脳にもっと興味がでてくれば、意識はいつ生まれるのか-脳の謎に挑む統合情報理論- が面白かった気がする。脳は意識を生み出すがコンピュータは意識を生み出さない、ではその違いはどこにあるのかって本。読んだのが昔で内容をあまり覚えてないのだけど、どの状態を意識があると認定するのかってひとつひとつ立証していくものだったような…。けど、それって…みたいに色んな疑問が次々浮かんだ記憶がある。そうやって次々疑問が浮かぶからこそ未踏領域はおもしろいのだと思う。


・素晴らしき洞窟探検の世界

「まだ誰も人間が辿り着いたことがないところに行きたい。地球の表面なら衛星で見えちゃうし、そうなると、海底か地中しかない。海の中は、いろんな機械が必要で個人では難しいから洞窟を選んだ。」みたいなちょっとぶっ飛んだことを平然と言ってのける洞窟探検家の人の本。

ぜんぜん知見のないことその分野の最前線で楽しそうにやってる人から本を通して話を聞けるのは非常に良い読書体験。

最後にラスコーの壁画など旧石器時代の人類を研究している五十嵐さんと対談が載ってるんだけど、そこだけでも結構おもしろい。

本書の中で、ケイビングについて少し触れられていて興味深かった。

近年は島の人々と洞窟の付き合い方に変化が見られるようになった。同島では5年ほど前から、地域雇用創造促進事業の一環として、島内の洞窟を案内して収入を得るケイビングガイドの雇用を作る3年事業が始まった。・・・中略・・・ 現在、洞窟ガイドをしながら、島の洞窟の魅力を広め、また活動を続けるために洞窟の保護にも取り組んでいる。

昔、スロベニアのシュコツィアン洞窟という大きな洞窟に観光で入ったことはあって、大きいところならその迫力だけで観光資源になるんだなと思ったんだけど、最近だと、海外ならケイビング、日本だと沢登りだとか、ちょっと危険を伴うアドベンチャー感あるネイチャー系のアクティビティが人気でてきている気がするので、今後こういう自然環境を守りつつ遊ぶアクティビティはどんどん一般的になっていくのかもしれないなと思った。

どうなんだろ、濡れるし汚れるから洞窟専用の装備に着替えるとして、スクーバダイビング的な位置づけで親しまれるようになるんだろうか。


・赤い三日月 小説ソブリン債務

最近ハマってる黒木亮の国際金融小説。間違いない。おもしろい。彼のエッセイも以前読んでいたので、モチーフや元ネタはアレかなと感じながら読めるのも良かった。

トルコを舞台に金を貸す貸さないの話なんだけど、お金なんでね、腐敗や妬み嫉みの足の引っ張り合いやね、いろんな思惑を持った人が利権に群がってたり腐敗に抵抗したりがね、生々しくてね、リアリティーがあってね、バンカーの仕事ってこんな感じなのかとね、思えてね、良い。

トルコ自体の雰囲気や文化も伺い知れるのが非常に良い。

トルコでは目上の男性に対して名前の下に「ベイ」という尊称をつけるとか、国旗の由来が近代トルコ建国の父(初代大統領)ケマル・アタチュルクがギリシャを撃破して国を守った戦場で、夜、流された血の海に三日月と星が見たから(諸説があるがこれが有力らしい)だとか。

へぇーと毎度のことながら著者の作品からは学びが多い。


・フラジャイル

病理医という、病気の原因過程を検体を分析して、臨床医から上がってきた診断を確定させる裏方にフォーカスを当てたマンガ。おもしろい。いま18巻まで出てるんだけど、寝る間を惜しんでマンガを読み、マンガを読む合間に仕事をやっつけて2日で1巻から最新の18巻まで一気に読んでしまった。

これまで、医療系のマンガやドラマって、チームバチスタの栄光系の天才外科医か、ドクターコトー診療所、権力闘争というか医学界の腐敗を描いた白い巨塔とかがだったと思うんだけど、このマンガは症状や検体の様子から病気の種類を確定させることにあるのでちょっと毛色が異なる。

何が面白いって、主人公は身も蓋もないことを平然と言ってのけるのと、それを突き通す芯の強さが、これを言うとあの人の顔が立たないとかのメンツや社内政治的なことを吹き飛ばていくところ。かといって、ただピュアな情熱で押し通す青春スポコン系の暑苦しいでなく、ひたすら理詰めで合理的に追い詰めるのが爽快で爽快で。(昔、tokioの長瀬主演でドラマ化されたらしいけど、長瀬って熱い系だと思うから全然キャラと合ってない気がする…。)

あと、裏方の縁の下の力持ち的なポジションの仕事ではあるので、世の大半の地味な仕事をしている人(ぼくを含む)に勇気を与えると思う。コメディ要素もあるので重くならなくて良い。バランスが良い。そう、つまりとても良い。

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