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現場を知らない人の善意の意見ってろくなことがないよね

親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている、のは坊ちゃんだけど、そういう世間知らずのお坊ちゃんって全てを水の泡にしかねないパワーを秘めているんだなと思った話。

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兵役のある某国の友人から最近聞いた話。

兵役のあるSK国では一定の年齢になると健康な男子は兵役がある。

けれど、大学での成績優秀者は代替措置として援助機関で海外プロジェクトのサポート業務に従事することができる。

ぼくの友人であるAはとある国で農業プロジェクトに従事していて、生産性向上に取り組んでいるんだけど、そこにサポート要員として2人(B及びC)やってきた。

代替措置のとれる成績優秀者ってたぶん洋の東西を問わず良家の子。ぼくがシティボーイと呼んで小バカにしている世間知らずの人(場合によっては自らをシティボーイだからというイクスキューズにも使う)。

Aのプロジェクトでは作物の遺伝子レベルの研究とか品種改良も行うんだけど、基本は農場に出る。毎朝、Aはピックアップトラックで農場で働いてくれている地元の人を何人かBとCを迎えに行く。何人かは荷台で風を感じながら農場に向かうことになる。

たまたまBが荷台に乗って農場に向かった日事件が起こった。

その日の夜、BはAの上司にメールをうった。

Aは私をトラックの荷台に乗せて出勤させました。これは非常に危険なことで、こんなことはさせるべきではないと思います。

Aの上司も現地の事務所に勤務している。現地の状況がどういうものか知ってるし、Aとの関係も良好。

最初、上司はBが何を言っているのかわからなかったらしい。荷台に乗るなんてことはこの国は普通のことだし、風を感じることができるんだからむしろラッキーな方だと。

一般的に先進国ではトラックの荷台に人が乗って公道を走るのは禁止されている。理由はそう、危険だからだ。

けれど、それはあくまで先進国の話。現地ルールに違反しているわけではない。当地ではみんなやってる、ごくごく普通のこと。

Bの言いたいことはわかる。先進国では危険とされ禁止されていることがここでは禁止されていないとしても、それを自分に適用するなと。なぜたかだか通勤で不要なリスクを負わなければいけないのか。それにここは途上国、そして地方。道は整備が行き届いているとは言えずボッコボコ。リスク高いじゃないか。

もちろんAは危険な運転をしているわけではない、スピードにも気を遣ってるし、ぼこぼこの道を通るときは徐行だ。これまで事故はない。事故はないからこそ現地スタッフを荷台に乗せている。

だから上司もBに、ここではそういうものだからと理解を促したそうだ。

Aと上司は、おもしろいことを言う奴もいるもんだね、世代かね?と笑ったようだけど、それでは話は終わらない。

納得のいかないBは親に連絡をした。彼の父はSK国の外務省の高官だった。

Aらの所属する援助機関は外務省の所管。我が子であるBの境遇に胸を痛めた父は改善を指示。

事件の翌々日、上司はなんらかの対策を講じざるを得ないことになった。

職場までのピックアップを何度かにわけで車の正規の乗車人数にするのは割に合わないし、かといって、その他の妙案は…と悩んだ末に出した結論は、ピックアップトラックの助手席にはSK国民のみ座ることができる

これでBもCも安全に通勤できるようなった。Bの父もこのルールなら安全が確認できるので文句はない。

めでたしめでたし。


…となるはずがない。

だって、現地スタッフ視点では合理的な理由にはならないから。

荷台に乗ることは現地の人にとっては普通のことだし、たしかに助手席に比べると危険だけれど、だからといってそれは致命的なものではないし、致命的なものだとすれば、なぜ現地スタッフである自分たちは自分たちの国にいるのに安全が保障されないのか、という話になる。

人間の命に差があるのか、あなたがたSKの援助機関は「私たちはあなたの良き友人だ」というけれどそれが友人の態度か、という話になる。

これまで築き上げてきた信頼関係などポジティブな感情が大幅に後退する。

実際、現地政府からの評判は非常に悪いらしい。

これ、BもBの父も善意なんだよなあ、たぶん。

正しいことをしようとした。彼らの正義に則って。

モンスターペアレント、過保護、世間知らずのお坊ちゃん…とかいろいろ、ぼくの視点(Aやその上司も同様)からだと思うのだけど、本音と建て前とか、要領の良さとか、ルールの解釈にバッファがないとかいろいろ思った。

何が正しいとかっていうのはその時々の状況や環境で変わると思うから、一般化できないこともあるけれど、改善を迫るっていうのは悪手だったと思う。結果的に1人の世間知らずのために、国民感情がネガティブな方へ振れてるように思う。

そのリスクを取るほどのことだったのかどうか。たしかに、自国民の命は大事だが…もし何かあったらどう責任とるんだっていうのもあるが…「もし…」なんて言い出したらキリがないのも事実なんだよなあ。

メーカーで働いていたときも思ったけど、何かトラブルが起こった時に、顧客に絶対に対策案を示さないといけないみたいなの、悪しき風習になり得るよなと思う。一定の確率で絶対不良品ってでるから。なぞに検査項目増えて生産性落ちるみたいな。

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