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思考のクセと成功体験の有無/イギリス留学week3

― 途上国が先進国にキャッチアップするのは可能だと思う?だとしたらどんな政策が必要だろう?ちょっと議論してみようか

大学院の授業は議論が多い。事前に課されたリーディングリストの内容をもとに、先生がポイントをかいつまんで説明してくれ、質疑応答があり、生徒同士で議論する。

なんか、つまんねえなと思っていた。

理由はいくつかある。当然、まだ講義が始まって2週間しか経っていないのもある。内容も国際開発の大枠の歴史であったり、第三世界という概念についてだったり、植民地主義からの脱却だとか、知識や議論の土台を作っている段階なのも理解できる。故に抽象的で具体性に欠けるので、ふーん以外の感想がないのだ。

政策立案を考えてみるというか、すごい大きな枠で開発を見ているし、見ようとしている。たしかに、ここに学びにくるような人たちは政府から派遣されてる人だったり、これから国のブレーンになるような人が多いのだからその能力を育むカリキュラムがあるのは理解できる。

でもなぁ、それぼくには関係ないんだよなぁ…と悶々としているときに自分の思考のクセに気づいた。

ぼくは「与えられた環境の中でうまいことやるしかないんだ」という価値観を持っていて、自分がコントロールできる、できそうなことにしか興味がない。現実主義を気取っている。

これはぼくのこれまでの経験が予算や人、モノの制約が多く、基本的に大手に振り回される中小企業で働いてきたことであったり、青年海外協力隊でいろんな不条理に揉まれながらもなんとか希望を見出そうとしてきた過程ですっかりすれてしまったのもあるし、政策立案なんて重要事項を決める中枢にいたことがないから、ゲームのルールを変える、作るという発想がなかった。

だから先週は特に一般教養の授業じゃないんだから、もっと具体的な話をしようよと思ってた。どうやったら地方のコミュニティの雇用を確保できるんだよって。

けど、よくよく思い返せば、ぼくがここに来た理由もそのあたりの上流のことを学びたいからだった。これまでのぼくの経験は草の根で、どんなに自分で意義深いことをやった(その道筋を示せた)と思ってもそのインパクトはかなり限定的で持続性にも難があった。自分のアイデアの有用性を客観的に評価をしにくかった。

だから、もっと偉くならないといけない、政策立案にも絡むくらいもっと上流のポジションで自分のコントロールできる範囲を増やさないといけない、そうすればより大きなインパクトを残せる。そのためにはもっと開発の知識を体系的に身につけないといけないと思ってここに来た。

つまり、まさにぼくが今足りない事を学べる環境にいるというわけだ。

そういうことを冒頭のテーマで議論しているときに思った。

その議論の中で、中南米出身の人が「途上国が先進国にキャッチアップするのは不可能だと思う」と言った。コロンビアは内戦で疲弊してるし、ベネズエラは石油があるのに腐敗して国があんなことになってる。どんな良い政策があったって無理だ、と言った。

すごく素直な意見だなと思った。言ってることは理解できる。たぶんいろんな理不尽を見たり経験してきたんだと思う。でも、それを認めてしまうと、ぼくたちが高い金を払ってここにやってきた意味がない。

ぼくは開発の仕事は、どんなに不条理や理不尽な目に遭おうとも前を向いて進まいといけないと思っているので、難しいのは確かだが不可能だとは言いたくはないと言ったけれど、じゃあどうすればいいかと言われるとしんどい。成功例を知らないから。

ここ、結構おもしろいなと思っていて、具体例が出せないと説得できない。なぜ具体例が必要かというと、成功するイメージをしやすいから。だからその提示する具体例も説得される側が納得感のあるものでないといけない。

さっきの例でいうと、ぼくは小さな国でもシンガポールは金融に特化して裕福になったし、カリブの島国やモルディブなんかも資源はないけど観光で外貨稼いでいるから特定のセクターを国を上げて重点的に支援するのもありだと思う、みたいなことを言ったけど響かなかった。だって、その人は中南米が発展が遅れている理由は腐敗だと思っているから。

ところで、話は飛ぶけれど、イギリスに来て結構おどろいたことが1つある。

それは卵。

こっちで売ってる卵、高級スーパーはもちろん、大衆的なところでもコープでも全部 Free Range Egg、つまりは平飼い卵(ケージ内ではなく放し飼いの鶏の卵)になっている。

アニマルライツについては本筋と大幅に逸れるので言及しないけれど、ぼくは平飼い卵は主流にはならないだろうと思っていた。もちろん、みんな口では「動物の権利も守られるべきだ」みたいなこと言えるけれど、それに行動が伴うかどうかは別だ。

この平飼い卵の場合、圧倒的多数の消費者がアニマルライツ分の値上げを負担できるかがポイントなんだけれど、現実的に考えて無理があると思っていた。だって社会は保守が多いのだし、アニマルライツを掲げて実際に自分でも行動を起こせる(値上げ負担できる)人間が多数派だなんて想像できなかったから。過半数以上の消費者が値上げ負担できないと、卵業者は(採算が合うと判断しないと)平飼いにするインセンティブが生まれないのでいつまでも平飼いが普及することない、現実は変わらない。

けど、ここイギリスでは (少なくともブライトンでは)、平飼いが普通になっている。故に驚いた。値上げ受け入れたんだと。具体的な転換点は知らない。だってぼくはスーパーを何店舗か観察しただけだから。それでも社会はこうやって変わるんだなというのを見た気がして、こういう成功体験を持っていたり、成功事例を知っていると、「社会はこうあるべきだ」と思う人たちをデモへ向かわせ、それに共感する人が多ければ実際に社会を変える大きなムーブメントになるのだと実感した。

言葉でどう表現して良いのかわからないけれど、それまでフィクションだと思っていたことがノンフィクションですよ、現実ですよと教えられたような、実際に起こっているからこそ圧倒的に説得力があるというか、ぼくが現実主義という言葉を使うとき、それは期待値は小さいですというニュアンスが込められているのだけど、条件次第ではもっと期待して良いのかも、そして人によって(その人の経験値の有無、幅によって)期待値にかなりバラつきがあるから当てにならないなと思ったweek3。

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