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GDPの基準改定にご注意を!

 昨日(2020年12月8日)、2020年7~9月期の四半期別GDP速報の2次速報が公表されました。今回の2次速報は、いつもの1次速報からの改定とは異なり、基準改定が実施され、GDPの実績値が過去にさかのぼって変更されています。この変更の読み方について、以下まとめてみたいと思います。

 というのも、昨日の日経新聞夕刊で驚くべき記述を見つけたためです。統計の見方を知らない(?)ために書かれたのか、明らかな間違いです。実質GDPの水準を、異なる基準で比較してはいけないのです。

7~9月期の年額換算の実質GDPは527兆円。速報段階の507兆円から約20兆円増えた。基準改定の影響で、過去に遡ってGDPの水準が切り上がった。

<異なる基準の実質GDPを比較してはいけない>
 実質GDPの金額は、参照年(実質GDPが名目GDPに等しいとみなす年)によって決まってきます。2020年7~9月期の四半期別GDP速報の1次速報時点では、この参照年が2011年でしたが、2次速報では2015年に変更されました。試みに、1次速報時点の実績値を用いて、参照年のみ2015年に変更したのが図1です。変更後の実質GDPは2019年で15兆円も大きくなります。

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<基準改定で名目GDPは5~10兆円増加した>
 基準改定の影響は名目GDPの水準で確認する必要があります。図2で示したように、1994年から2019年の間で、名目GDPは4.9兆円(2014年)から9.8兆円(1996年)の幅で増加しています。これは、(1)改装・改修(リフォーム・リニューアル)を、総固定資本形成(民間住宅及び民間企業設備)にカウント、(2)娯楽作品原本を、総固定資本形成にカウント、することなどの変更が行われたためです。これまでGDPに含まれなかったものを含めるようにしたので、名目GDPの金額が大きくなったのです。

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<改定の影響は総固定資本形成が中心だが>
 図3では、名目GDPの改定幅(=改定後-改定前)について、需要項目の内訳を示しています。主な改定要因が総固定資本形成(図3の灰色の棒グラフ)に関連しているため、改定幅のほとんどは総固定資本形成の改定によるものです(最大9.8兆円、最小7.0兆円)。一方、この総固定資本形成の改定幅は2010年代前半で小さめになっています。この一因は、基準改定において新たな産業連関表(今回は2015年の産業連関表)の情報を取り込んだことにあります。より具体的には、建設業(建設補修分除く)の産出額の過大推計です。

 産業連関表はほぼ5年に1度しか作成されません。GDP推計では、産業連関表が作成されない年や、基準年から先の年については様々な経済データを用いて、産業連関表に代わるものを作成しています(延長推計と呼ばれる)。改定前の2011年基準では、2012年以降の建設業(建設補修分除く)の産出額について、「建設総合統計」(国土交通省)を用いて延長推計していました。内閣府の資料によれば、その推計に基づく2015年の建設業(建設補修除く)の産出額は、2011年の1.242倍だったのですが、2015年の産業連関表に基づく建設業(建設補修除く)の産出額は2011年の1.162倍と延長推計より少なかったのです。このため、前述の要因で増える一方、過大推計を調整したことで、2010年代前半の総固定資本形成の改定幅が他の年に比べて少なくなっているのです。

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輸入が増えている(名目GDPを減らす要因になっている)のは?
 一方、輸入(図3の緑色の棒グラフ)は、改定後の名目GDPを減らす要因になっています。これは、娯楽作品原本を総固定資本形成にカウントするとともに、海外からの著作権等使用料の受取と支払いを、新たに輸出入にカウントするようになったためです。日本は著作権等使用料について輸入超過になっているためです。

 このほか、2010年前後で最終消費支出が減っている(名目GDPを減らす要因になっている)ことについては、これから内閣府に問い合わせてみたいと思います。何かわかったら、またnoteに書きますね。

#日経COMEMO #NIKKEI

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