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民間需要は10四半期ぶりの前年同期比減少~2023年7~9月期のGDP1次速報

本日(15日)、内閣府は7~9月期の国内総生産(GDP)速報値を公表しました。本日の日経夕刊は季節調整済み前期比の動きに注目して報道しています。本稿では、いつも通り、前年同期に比べた変化に注目していきましょう。


実質GDPの前年同期比成長率は緩やかな減速だが…

 2023年7~9月期の実質GDPの前年同期比成長率は1.2%。4~6月期の1.7%から0.5ポイント低下しました。2023年1~3月期の直近のピーク(2.0%)から緩やかな減速となっていますが、2021年4~6月期以降のプラス成長が続いており、一見、悪くないようにも見えます。
 しかし、そのプラス成長は輸入の減少(GDP成長率に対してはプラスの寄与)に大きく依存しています。実質GDPの1.7%成長のうち、1.2%は輸入の減少によって達成されているためです。前期比で見た成長率では、4~6月期が輸入減少によってかさ上げされたことが注目されましたが、前年同期比でみると、むしろ4~6月期(輸入はプラス0.3%の寄与)より7~9月期の方が「輸入減による実質GDP成長率の押し上げ」となっています。
 この輸入減の背景となっているのは民間需要の減少でしょう。タイトルにも書かせていただいたように、前年同期比でみた民間需要の減少は2021年1~3月期以来、10四半期ぶりになります。4~6月期には実質GDP成長率を0.4%押し上げていた民間需要は、7~9月はマイナス0.7%の寄与となっています。 もちろん、民間需要のマイナス寄与は民間在庫(マイナス0.5%の寄与)の影響が大きいですが、それを除いてもマイナスには変わりありません。民需が減って、輸入も減少という景気の悪いときの成長率のパターンにも見えます。

国内の総合的な物価動向は、国内需要デフレーターで見よう

 上記の日経夕刊記事は「インフレは歴史的局面にある。国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは7~9月期に前年同期比で5.1%上昇となった」と解説していますが、国内の総合的な物価動向は、国内需要デフレーター上昇率でみるのが適切です。国内需要デフレーターは、個人消費や設備投資の価格動向を総合したものだからです。
 国内需要デフレーター上昇率でみると、歴史的局面にあったのは昨年(2022年)のようです。国内需要デフレーターは前年比で3.0%上昇しましたが、これはバブル景気の終わり、1990年の3.1%に次ぐものでした。国内需要デフレーター上昇率は2023年に入ってからむしろ伸びを縮小(1~3月期:2.9%→4~6月期:2.5%→7~9月期:2.5%)させています。
 一方、GDPデフレーターの前年比上昇率は足元で急激に高まっています(1~3月期:2.0%→4~6月期:3.4%→7~9月期:5.1%)し、2023年1~9月の前年同期比は3.5%まで高まっており、グラフをみればわかるように1980年以降で最高の伸び率です。
 ただし、これは、2023年1~3月期まで上昇していた輸入デフレーターが低下に転じたためです(GDPデフレーター上昇率の要因分解ではプラス)。一方、「輸入物価指数」(日本銀行)を見ると、2023年10月は7~9月に比べて輸入物価の下落率が縮小しています。輸入デフレーターによるGDPデフレーターの押し上げは、そろそろピークをつけるかもしれませんね。国内需要が低迷する中で、いつまで国内物価の価格転嫁が続けられるか注意深く見ていく必要がありそうです。

12月の改定値で実績が変わる可能性にも注意

 なお、12月8日に公表が予定されている改定値(2次速報)で、以上の実績値が変わる可能性にも注意してください。本日の日経夕刊で注目している民間設備投資や民間在庫は、12月初旬に公表される「法人企業統計季報」(財務省)の実績値が追加され再推計されます。
 さらに、この時に2022年の値が、年次推計というより詳細な情報に基づいた実績値に変わります。例えば、政府支出に財政統計の情報が織り込まれたりします。この結果、2022年の実質GDP成長率やその内訳の姿が変わり、それが2023年以降の成長率にも影響する可能性があります。
 12月8日の改定値が公表され次第、私もnoteでフォローアップしていきます。

#日経COMEMO #NIKKEI

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