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戦後最大のマイナス成長は「ゲタ」のせい

 昨日(5月18日)、2021年1~3月期の国内総生産(GDP)速報値とともに、2020年度の実質経済成長率も公表されました。20年度の成長率はマイナス4.6%で、リーマン・ショック時(2008年度)のマイナス3.6%を上回り、戦後最大となりました。新聞各紙は、この戦後最大のマイナス成長を大きく報じています。

 しかし、リーマン・ショック時にシンクタンクエコノミストの端くれをしていた者からすると、コロナ禍の日本経済がリーマン・ショック時よりも大きな落ち込みになっているということが納得いきません。

 確かに、ショックが発生した直前の四半期から実質GDPが最も落ち込んだ四半期までの下落率を比較すると、今回の方が落ち込みは大きいです。

リーマン時:7.8%減(08年4~6月期→09年1~3月期)
今回:8.5%減(19年10~12月期→20年4~6月期)

 しかし、以下の図に示したように、リーマン時は2009年1~3月期以降の回復は緩やかなものでした。一方、今回は2020年10~12月期には、ショックが発生した2020年1~3月期に近い水準まで実質GDPが回復しています。実実質GDPが落ち込み続けた2008年度と、2020年4~6月期の大底から回復傾向にあった2020年度を比べて、後者の方がマイナス成長が大きいというのは、少々、変な気がいたします。

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 このモヤモヤ感の原因は、成長率の「ゲタ」にあります。「ゲタ」は、年度の最終四半期(1~3月期)の実質GDP(季節調整値、年率)が、当該年度の実質GDPをどれだけ上回っているか下回っているかを示したものです。そして、この最終四半期は次の年度の発射台にもなります。言い換えれば、今後、4四半期連続で前期比ゼロ成長を続けた場合に達成可能な年度成長率が「ゲタ」になります。

 マイナスの「ゲタ」の効果の大きさを物語るうえでよく用いられるのが2009年度の成長率です。上の図を見ればわかるように、2009年度の各四半期の実質GDPは緩やかな増加傾向にあります。しかし、2009年度の成長率はマイナス2.4%であり、下記のNQN穂坂デスクの記事でも、戦後3番目に大きなマイナス成長であることが示されています。

 下の図は、2008年度成長率にとっての「ゲタ」、すなわち、2008年1~3月期の実質GDPが、2007年度の実質GDPを0.3%上回っていたことを示しています。また、2020年度成長率にとっての「ゲタ」、すなわち、2020年1~3月期の実質GDPが、2019年度の実質GDPを1.3%下回っていたことを示しています。つまり、2008年度成長率には、2020年度成長率に比べて1.6ポイントもの”ハンデ”があったといえるのです。

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 冒頭に示したように、2020年度成長率と2008年度成長率の差は1ポイント。ハンデ分を除くと、2008年度成長率の方が落ち込みは大きかったと考えるべきなのではないでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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