貿易動向の観察に使える2つの指標~輸出数量指数と実質輸出
日本の貿易統計において、輸出の減少傾向が出てきています。3月17日の日本経済新聞朝刊では、16日に公表された2023年2月の「貿易統計」(財務省)を受けて、数量ベースの輸出の落ち込みが目立つことを指摘しています。この記事では、貿易統計の中で公表されている輸出数量指数(注1)が用いられています。輸出金額は輸出品の価格変動(為替レートの変化も含む)の影響を受けるため、貿易量に注目しているのでしょう。一方、同様な観察を行ううえで、日本銀行が算出する分析データ、「実質輸出」を用いる方法もあります。
「価格」の取り方が異なる
輸出数量指数も実質輸出も、貿易金額を価格で割ることで求められていますが、価格の算出方法に違いがあります。
輸出数量指数は、輸出金額指数(輸出金額を基準年=100の指数に変換)を輸出価格指数で割って求めています。財務省の資料によると、この輸出価格指数はフィッシャー式という考え方で求められています。
これに対して、実質輸出は輸出金額を「企業物価指数」(日本銀行)で割って求めています。企業物価指数はラスパイレスという考え方で求められています(消費者物価などもラスパイレスの考え方で算出されています)。
分母である価格の取り方が異なるため、両者の動きは異なります(下図)。特にかい離が大きいのは2018年以降です。実質輸出はコロナ禍の初期近辺に落ち込んだ後は横ばい圏内で推移してきました。それに対し、輸出数量指数は同様にコロナ禍の初期に大きく落ちこんだほか、徐々に水準を切り下げているように見えます。
直近の2003年1~2月平均はともに前期(10~12月期)に比べて減少していますが、輸出数量指数は7%程度のマイナスに対し、実質輸出は5%程度のマイナスと実質輸出の方が低下幅が小さいです。
GDP統計の実質輸出と動きが近いのは「実質輸出」
輸出動向は、GDP成長率を見るうえでも注目度が高いですが、GDP統計における実質輸出の動きに近いのは、日本銀行の「実質輸出」です(下図、注2)。そもそも、日本銀行の実質輸出(実質輸入も算出してます)は「実質GDPにおける輸出入と同じ考え方に基づき、物価変動の影響を除いた実質的な価値ベースで財の輸出入を計測した指標」と日本銀行の資料(実質輸出入の見直しと活用のポイント)にも書かれています。GDP統計は四半期単位でしか公表されていないため、月次単位で早く先行きの動向をつかむのに役立つというわけです。
この実質的な価値ベースとは、車の輸出を例にとると、同じ台数の車を輸出しても高級車の割合が高ければもうけ(付加価値)が多くなると示すことができることを意味します。
鉱工業生産指数の動きに近いのは輸出数量指数
一方、輸出と並んで注目度が高い月次の経済統計が鉱工業生産指数ですが、この鉱工業生産の動きに近いのは輸出数量指数の方になっています(下図)。輸出数量指数も鉱工業生産指数も2018年ごろから徐々に水準が切り下がっているように見えます。1月の鉱工業生産指数は、前期(2022年10~12月)に比べて5%低下しています。2月分は3月31日に公表されますので、1~2月平均でみた落ち込みがどれだけになるのか注目したいですね。
ちなみに、鉱工業生産指数は指数の算出に用いられている品目(412品目)の生産量を加重平均して算出されています。輸出数量指数は実質輸出よりは輸出の数量に近いものを示しているため、鉱工業生産指数の動きと近くなるということなのでしょうか?(注3)。
新聞記事で輸出数量指数が用いられるワケは?
このように貿易量という観点では輸出数量指数と実質輸出の2つの指標があります。しかし、新聞記事では輸出数量指数が用いられるケースが圧倒的に多いようです。この一つの理由は、実質輸出全体は貿易統計が公表された日の午後には日本銀行ホームページに掲載されるのに対し、実質輸出の財別、地域別のデータの公表は少し遅れるためではないかと推察されます。上述の日本銀行資料を読むと作業量的には難しそうですね…。ただ、財別や地域別の輸出数量指数や実質輸出を比較するのは面白そうなので、稿を改めて行ってみたいと思います~。
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