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シニア層の就業率は上がってますよ~コロナ前(2019年)と2022年の就業者数の比較(その1)

 編集委員&連載を書かせていただいている、とある英文誌(私は日本語で書いて英訳してもらってますが(笑))の編集委員会で、「そろそろ、様々な視点でコロナ前との比較が読みたいですね」というご要望を今週月曜日(1/30)にいただいていたら、今週水曜日(2/1)に日経に下記の記事が出てました。タイムリーな内容とは思うのですが、「けん引役だった高齢層の労働参加率が伸び悩んでいる」というエコノミストの方のコメントは事実誤認です。「労働力調査」(総務省統計局)のデータを用いて、明らかにしていきましょう。

70歳以上の就業者は、人口要因と就業率上昇で60万人増加

 この記事で書かれている「就業率」は、各年齢層の就業者数を各年齢層の人口で割ったものとして定義されます。労働力調査は15歳以上人口を対象としていますので、総数の就業率は「就業者数÷15歳以上人口」となります。
 さらに、記事が注目するコロナ前(2019年)と昨年(2022年)の就業者数の変化は以下の3つの要因に分解できます。

人口要因:就業率が2019年と2022年で変化がなかったとした場合、この間の人口増減で就業者数はどれだけ変化したか?
就業率要因:人口が2019年と2022年で変化がなかったとした場合、この間の就業率の上昇低下で就業者数はどれだけ変化したか?
交差項:上記2つの要因に分類できない就業者数の変化

 上記の考え方をもとに、2019年から2022年にかけての男女計の就業者数の変化を要因分解したのが下図です。総数に注目するとわかるように、人口要因が大きなマイナスになっている中で、就業率が上昇することで就業者数の減少を抑制していることがわかります。年齢階層別にみると人口要因が就業者数を減少させる年齢層が大半の中で、50~54歳、55~59歳、70歳以上はかなりはっきりと人口要因がプラスに働いていることがわかります。
 70歳以上については、団塊世代(1947年~49年生まれ)が70歳以上に移ってきた影響、50~54歳は団塊ジュニア世代(1971年~74年生まれ)が50代になった影響と思われます。また、55歳以上の各年齢層で就業率の上昇が就業者数の押し上げ(65~69歳では就業者数の減少の抑制)につながっていることがわかります。70歳以上の就業者数は、人口要因と就業率上昇で65万人増加しています!

男性の就業率はシニア以外で低下

 一方、男女別で同様の観察を行うと、違った姿が見えてきます。まず、男性ですが、総数を見ると人口要因も就業率の低下も男性の就業者数の減少に結び付いています。年齢階層別にみると、60歳以上の各年齢層で就業率の上昇が就業者数の押し上げに働いている一方で、それ以下の年齢層は就業率要因が就業者数の押し下げにつながっている(就業率の低下)のです。

女性は15~24歳を除き、就業率上昇

 一方、女性は人口要因を就業率上昇がカバーして、2019年に比べて20万人就業者が増えています。しかも、15~24歳を除き、全年齢階層で就業率が上昇し、就業者数の押し上げや就業者数の減少の抑制につながっています。就業率上昇による押し上げ幅は、男性と同様に60歳以上も大きいですが、20代後半から30代でも目立ちます。

 こうした男女間の就業率の動きの違いは、以下の式のように、労働力率の変化と完全失業率の変化に分解可能です。就業率の低下は、労働市場から退出する人が多い(労働力率の低下)ことも、完全失業率の上昇も、原因になりうるのです。日経の記事では、ミスマッチ失業の要因に言及していましたが、完全失業率の変化の要因は本当に大きいのか?稿を改めて、この就業率の変化についても要因分解してみたいと思います!

就業率=就業者数÷15歳以上人口
   =(就業者数÷労働力人口)×(労働力人口÷15歳以上人口)
   =(1-完全失業率)×労働力率




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