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日本の税・社会保険料収入のGDP比はこれだけ上昇している

低成長→税収伸び悩みというが

 今朝の日本経済新聞朝刊1面に興味深い記事が出ていました。日本が低成長であるため、他の先進国に比べて税収の伸びが鈍い。一方で社会保障などの支出がかさみ、財政が硬直化しているため、成長につながる支出ができていないとしています。

 記事では、国際通貨基金(IMF)のデータをもとに、以下のように日本の税収の伸び悩みぶりを示しています。

財政運営が硬直化する根本の要因は経済の低迷だ。国際通貨基金(IMF)によると日本の過去20年間の平均成長率は0.6%。米国(1.9%)や英国(1.5%)、ドイツ(1.1%)に及ばない。
この間、税収や社会保険料などの政府収入は米国が2.6倍、英国が2.3倍、ドイツが1.8倍に増えたのに対し、日本は1.3倍どまり。23年度は税収が過去最高の69兆円に達すると見積もるが、国際的に見れば伸びは鈍い。

名目GDPがほとんど増えない中、税・社会保険料収入が伸びた過去20年

 昨日(12月24日)に公表されたGDP統計の年次推計では、一般政府(国、地方自治体、社会保障基金の総計)ベースの税収や社会保険料収入の1994年度から2021年度までの実績値が確認できます。それによると、2021年度の税・社会保険料収入の総額は約186兆円。20年前の2001年度は約134兆円だったので約1.4倍で、記事の記述とほぼ一致します。
 では、この間、税収や社会保険料収入に影響を与えると考えられる名目GDPはどれだけ増えたのでしょうか?2001年度の527兆円に対して、2021年度は550兆円であり、1.04倍に過ぎません。名目GDPに対する税・社会保険料収入の比率の上昇、言い換えれば、増税や社会保険料率の引き上げなどが進んできたため、少ないとはいえ、これだけの税・社会保険料収入の伸びが実現できたといえます。
 
ちなみに、記事で書かれている成長率は物価変動の影響を除いた実質GDP成長率と思われます。

 下の図は、GDP統計の年次推計を用いて、税・社会保険料収入と名目GDP比の1980年度以降の推移を描いています。現行基準のデータでは1994年度以降しか得られないため、1993年度以前は旧基準のデータを用いています。2001年度には25.4%だった税・社会保険料収入の名目GDP比は、2021年度には33.7%まで上昇しています。日本全体で生み出された付加価値の約3分の1が税・社会保険料の支払いに回っているというわけです。

社会保険料収入の名目GDP比の上昇が著しい

 バブル崩壊後の1990年代、景気の下支えのために減税などが行われていました。上のグラフを見ると、1990年度には28.6%まで上昇していた税・社会保険料収入の名目GDP比は、1990年代に入るといったん大きく低下しました。2009年度あたりまでは24~27%の間で推移していましたが、その後、一貫して上昇を続けています。
 この理由を探るために、下の図は税・社会保険料収入の内訳の名目GDP比の推移を示しています。
 まず、一貫して上昇トレンドにあるのが社会保険料です(GDP統計では、「純社会負担(受取)」と表示されています)。年金、医療などの社会保障を賄うためのもので、じりじりと負担が高まっている様子が確認できます。
 消費税・固定資産税など(GDP統計では、「生産・輸入品に課される税」と表示されています)も近年、消費税率の引き上げにより、名目GDP比の上昇が確認できます。
 所得税・法人税など(GDP統計では、「所得・富等に課される経常税」と表示されています)の名目GDP比は、まだバブル期には届かないものの、じわじわと上昇しています。
 新聞などで取り上げられる国の一般会計では、国の税収の動きは確認できますが、特別会計に計上される社会保険料の推移はあまり注目されません。そうした目に見えないところで負担増がじわじわ高まっていることに、もう少し目を向ける必要があるかもしれません。


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