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2023年の経常収支黒字はコロナ禍前の水準にほぼ回復~ただし、中身は様変わり

昨日(8日)、2023年12月と2023年の国際収支統計が公表されました。2月9日の日経朝刊は、最近はやりの「デジタル赤字」に注目して2023年の経常収支を解説しています。
本稿では、原統計に沿ってコロナ禍前の2019年と比較するとともに、2023年12月の動向についても見ていきたいと思います。

経常収支黒字は第一次所得収支の黒字頼み

 2023年の経常収支黒字は20.6兆円。過去最高の2021年(21.5兆円)には届きませんでしたが、コロナ禍前の2019年(19.3兆円)は上回りました。ただ、その中身は下記の表の通り大きく変わっています。第一次所得収支以外の項目はすべて2019年に比べて減少(赤字幅が拡大)し、そのマイナスを第一次所得収支の黒字拡大がカバーしていることが確認できます。
 貿易収支は、2022年の大幅赤字からみれば赤字縮小ですが、図で確認できるように東日本大震災のあった2011年以降は赤字傾向が定着しつつある姿が確認できます。
 サービス収支はもともと赤字傾向ですが、2017年には赤字がほぼゼロまで縮小。その後はいったん拡大し、2023年は縮小しています。
 第一次所得収支はもともと黒字拡大傾向ですが、この2年間の黒字の大きさは歴史的に見ても大きいですね。

        2023年  2019年  変化
経常収支    20.6兆円 19.3兆円 1.3兆円のプラス
貿易収支    ▲6.6兆円 0.2兆円 6.8兆円のマイナス
サービス収支  ▲3.2兆円 ▲1.1兆円 2.1兆円のマイナス
第一次所得収支 34.6兆円 21.6兆円 13兆円のプラス
第二次所得収支 ▲4.1兆円 ▲1.4兆円 2.7兆円のマイナス 

サービス収支は「その他」の赤字が拡大

 サービス収支は2003年から知的財産権等使用料収支が黒字化、2015年が旅行収支が黒字化することで2017年まで赤字が縮小傾向にありました。しかし、その他サービス収支(知的財産権等使用料収支を除く)の赤字が近年拡大していることが赤字の主因になっています。2019年と比較しても、知的財産権等使用料収支と旅行収支の黒字が拡大する一方で、その他サービス収支(知的財産権等使用料収支を除く)の赤字が大幅拡大したために、サービス収支の赤字が拡大していることがわかります。
 なお、知的財産権等使用料収支は、特許等の産業財産権等使用料収支(2019年:3.4兆円→2023年:5.0兆円)の黒字が拡大する一方で、著作物を複製して販売するときの使用許諾料である著作権等使用料収支(2019年:▲1.2兆円→2023年:▲1.7兆円)の赤字が拡大しています。
 また、旅行収支は日経でも黒字が2019年を超えて過去最大であることが報じられてます。しかし、内訳を見ると、外国人の日本での消費額(旅行収支の受取)は2019年とほぼ変わらない(2019年:5.0兆円→2023年:5.2兆円)一方で、日本人の海外での消費額(旅行収支の支払)は2019年に比べて減っています(2019年:2.3兆円→2023年:1.8兆円)。円安進行のせいでしょうか?。あまり嬉しい黒字拡大ではないですね(涙)。

            2023年  2019年  変化
サービス収支      ▲3.2兆円 ▲1.1兆円 2.1兆円のマイナス
輸送収支        ▲0.7兆円 ▲0.9兆円 0.2兆円のプラス
旅行収支        3.4兆円  2.7兆円  0.7兆円のプラス
知的財産権等使用料収支 3.2兆円 2.2兆円   1.0兆円のプラス
その他サービス収支   ▲9.2兆円 ▲5.1兆円 4.1兆円のマイナス
(知的財産権等使用料収支を除く)

「保険・年金サービス」「その他業務サービス」の赤字が拡大

 では、知的財産権等使用料収支を除く「その他サービス収支」の赤字は何が主因なのでしょうか?
 2019年と対比すると、「保険・年金サービス」(2019年:▲0.6兆円→2023年:▲2.4兆円)、「その他業務サービス」(2019年:▲3.0兆円→2023年:▲4.6兆円)の赤字拡大でほぼ説明できます。
 日本銀行の資料によると、保険・年金サービスは、「再保険、貨物保険、その他の損害保険を提供するサービスのほか、保険・年金取引に付随するサービスの取引」が計上されているようです。
 その他業務サービスは、「研究開発サービス」(2019年:▲1.2兆円→2023年▲1.7兆円)、「専門・経営コンサルティングサービス」(2019年:▲1.1兆円→2023年:▲2.1兆円)、「技術・貿易関連・その他業務サービス」(2019年:▲0.7兆円→2023年:▲0.8兆円)に区分されています。専門・経営コンサルティングサービスの赤字拡大が顕著で、これは日経の記事中のデジタル赤字の一部です。
 なお、私自身はこれをデジタル赤字と呼ぶのには抵抗があります。下記のnoteで詳しい説明をいたしておりますのでご高覧いただければ幸いです。

第一次所得収支では「再投資収益」も押し上げ

 第一次所得収支は、その内訳のすべての項目で黒字が拡大しています。この中で直接投資収益の黒字拡大が目立ちます(日経の記事でも指摘されていますね)。
 直接投資収益の中で「再投資収益」は、日本企業の海外子会社の内部留保(純利益のうち配当金などに回さず、企業内に残しておいたもの)が計上されてます。実際に日本に還流する収益ではなく、計測上、円安で膨らむ部分でもあります。

           2023年  2019年  変化
第一次所得収支    34.6兆円  21.6兆円 13兆円のプラス
直接投資収益     10.3兆円  5.3兆円  5.0兆円のプラス
(再投資収益を除く)
再投資収益      10.3兆円  5.9兆円 4.4兆円のプラス
証券投資収益   12.1兆円   9.7兆円 2.4兆円のプラス
その他    0.6兆円  1.9兆円 1.3兆円のマイナス


2023年12月の経常収支の季節調整値は黒字縮小

 最後に2023年12月の経常収支の動向を確認しておきましょう。
 12月の経常黒字は季節調整値でみると1.8兆円。直近のピークに並んだ11月(1.8兆円)から0.1兆円減りました。貿易収支は赤字幅を縮小(11月:▲0.6兆円→12月:▲0.4兆円)、サービス収支も赤字が続きました(11月:▲0.2兆円→12月:▲0.3兆円)。第一次所得収支の黒字も若干縮小(11月:2.9兆円→12月:2.8兆円)しました。
 一方、原数値の前年同月差をみると0.7兆円のプラス。2023年4月以降の前年同期差プラスを続けています。貿易収支の前年同月差のプラス幅が拡大(11月:0.8兆円→12月:1.4兆円)した一方で、第一次所得収支は前年同月差のマイナスが続いています。


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