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「年収の壁」を意識する女性の有業者は多いのか?~2022年の就業構造基本調査

 昨日(21日)、5年に1回行われる「就業構造基本調査」(2022年調査)が公表されました。今朝の日経は、25~39歳の女性のうち働く人の割合(有業率)が8割を超えたことなどについて報じています。また、最近話題の「年収の壁」を意識して働く女性の存在を示し、課題と述べています。少し違う角度から女性の有業率を観察してみたところ、年収の壁のイメージに当てはまる女性有業者は減っている印象を受けました。


有業率上昇幅のトップは60歳前半の女性

 下の図は年齢階級(5歳刻み)別の女性の有業率について、今回調査と前回調査(2017年)を比較したものです。年齢階級は84歳まで5歳刻みのデータがありますが、見やすいように図は65歳以上をまとめています。
 女性全体の2022年の有業率は記事にもあるように53.2%で、前回調査から2.5ポイント上昇しました。一方、年齢別にみると日経記事が注目している25~39歳の中では、30~34歳(7.0ポイント)、35~39歳(5.3ポイント)の有業率の上昇が著しくなっています。ただ、それを上回るのが60~64歳の有業率の上昇幅(7.1ポイント)です。シニア層の労働参加が女性の有業者の増加につながっている姿が確認できます。これは、「労働力調査」(総務省統計局)の近年の労働力人口の増加がシニア層の労働参加に支えられていることにも表れています。

年齢別にみると世帯主かつ単身の女性の有業率が高いが…

 女性の有業率は、男性よりも配偶者の有無などによって異なる度合いが大きい傾向にあります。2022年の調査において、女性人口は5706万人でしたが、そのうち世帯主かつ単身者の女性は1131万人(全体の19.8%、前回調査に比べて1.7ポイント上昇)、世帯主の配偶者の女性は2789万人(48.9%、前回調査に比べて0.9ポイント低下)でした。いわゆる”おひとりさま”が増えていることが確認できます。年齢階層別でみると20代以上の各年齢階層でおひとりさまが増えており、25~29歳(全体の25.2%、前回調査に比べて4.8ポイント上昇)など若年層で顕著です。
 下の図は世帯主かつ単身者の女性と世帯主の配偶者の有業率を年齢階層別で比較したものです。若い世代ほど世帯主かつ単身者の女性と世帯主の配偶者の女性の有業率の差が大きくなっています。このあたりに記事が言う「共働き世帯の増加を踏まえ、育児との両立可能な働き方」の重要性が現れているのかもしれません。ただし、女性全体でみると、2022年の調査において、世帯主かつ単身者の女性の有業率は44.1%、世帯主の配偶者の女性の有業率は55.4%と逆転します。人口の多いシニア層で世帯主の配偶者の労働参加が多いことが寄与していると思われます。実際、15~64歳で比較すると世帯主かつ女性の有業率は82.5%、世帯主の配偶者の女性の有業率は73.5%となります。

世帯主の配偶者の女性の有業率、「仕事が主」が高まる

 就業構造基本調査では、有業者の内訳として「仕事が主な者」と「仕事が従な者」を示しています。年収の壁を意識するのは「仕事が従な者」ではないでしょうか。
 しかし、世帯主の配偶者の女性の有業率55.4%の内訳は、仕事が主な者(30.8%)、仕事が従な者(24.5%)と仕事が主な者が多くなっています。これは、15~64歳の有業率73.5%で見ても仕事が主な者(42.9%)、仕事が従な者(30.6%)と変わりません。
 さらに、下図のように年齢階級別で世帯主の配偶者の女性の有業率を見ると、若い世代ほど「仕事の主」のウエートが高いことが確認できます。さらに、前回調査と比較すると、若い世代ほど有業率の上昇が大きく、さらに、仕事が主な者の有業率が上昇し、従な者が低下している傾向が確認できます。若い世代ほど「年収の壁」とは無縁になっているのではないかと推察されます。

就業調整しているのは女性の有業者の14.6%

 日経の記事では、「非正規で働く女性のうち就業調整をしている人」の割合の上昇を年収の壁の存在を示すことに使っています。一方、非正規で働く女性が女性有業者全体に占める割合は、前回調査の50.2%から今回は47.7%へ、そのうち就業調整している人が女性有業者全体に占める割合は前回調査の15.9%から今回は14.6%へと、それぞれ低下しています。
 年齢階級別にみると若年層ほど就業調整している人が女性有業者全体に占める割合が低い傾向があり、25~34歳では7.4%に過ぎません。年収の壁のイメージに合う女性は徐々に減っているのではないでしょうか?

#日経COMEMO #NIKKEI

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