ダイアログインタビュー ~市井の人~ 岩井哲也さん 「エネルギーと恩のやり取り」 4

◎これから

――そんな中で、菅野漬物って傍から見ると結構景気の良い漬物屋さんだなという風に見えるんですけど、これから先の展望ってどんな感じですか?

岩井 これから先の展望ですか…さっきも言ったように、漬物のキャパシティは全国的にヘコんでいます。全国的に、ここ10年で、2500件ほどあった漬物屋が900件ぐらいにまで減っています。それくらい漬物屋は必要無いものになってきてるんです。その一方で今外食産業は増えてきているわけですよね。という事は、狙い目は外食なんですよ。漬物って家で食べるものというイメージがありますけど、業務用でもイケるんじゃないかという風には思いますね。それと、さっき言った「浜めししらす生姜」という商品を、ホテルや旅館の朝食に出してもらって、ポップと一緒にフロントの横に置いてもらって、気に入った人に買っていってもらうような事も考えてまして、今、旅館回りなんかをしています。地元の旅館も含めです。

――自分から各地の催事に出店して販売に行くのではなくて、拠点に卸すやり方にシフトしていく感じですね。

岩井 そうです。そうすれば催事に行かなくても良くなるので、そっちにシフトしていこうかなと思ってます。そっちのほうが良いなと。

――そのためには全国的に営業をかけていく必要があるという事ですね。

岩井 そうですね。

――ネット販売はどうですか?

岩井 ネット販売もそこそこですよ。まだまだ伸びしろはあると思います。震災前はあんまり売れてなかったんですけど、去年は1000万円くらいの売上になりまして。今年は売上1200万円を目標にしてます。

――売上全体の中でのパーセンテージって、ネット販売はそれほどでもないんですね。

岩井 それほどでもないですね。でもだんだん伸びてきてますし、今まで電話注文してくれていたお客さんが「ネットで買えるならネットで買う」と買い方をシフトした方もいらっしゃいますしね。今までのうちのお客様層が50代60代70代だったので、こうした方はネットでは注文しませんでした。それ以外のネットユーザー層のお客さんが増えた事もあるでしょうね。

■ ここまで話したところで、岩井さんの携帯電話が鳴った。少しだけ相手と話をして、「また後でかけ直します」と電話を切った。インタビューは半日休みの日を選んで行ったのだが、実はこの電話以外にも、インタビュー中に電話がかかってきていた。休みも関係無い忙しさのようだ。その電話を切った後、岩井さんがこう続けた。

岩井 11月3日に、イベントをやろうとしてるんです。「みそ漬処 香の蔵」のお店で。

――へぇ!どんなイベントなんですか?

岩井 「秋の大感謝祭」みたいな感じで!キムチ鍋無料ふるまいとか、「浜めししらす生姜ごはん」無料ふるまいとか、

――そりゃまた豪気な感じですね(笑)。

岩井 あとは「なみえ焼きそば(浪江町のB級グルメ)」の屋台が出たり、SLが走ったり、アンケートに答えてくれた方にプレゼントを上げたり、子どもたちにステージで踊ってもらったり。震災前もやってたんですよ。お祭りやるのは6年ぶりなんです。

――楽しそうですね~!震災後初ですか?

岩井 震災後初です。ずっと「元気を発信したいな」と思ってるんです。地元から「香の蔵元気あるな!」とか、催事に他県に行っても、「福島県の店なのに元気あるな」とか、そういう風に思ってもらいたいなと思って。まぁカラ元気な部分もありますけど(笑)。意識して大きな声を出してニコニコ元気にやっているという部分はありますね。震災後すぐの頃は県外に催事に行っても、「恵まれない販売員にご協力を!」と言っていれば「何だ可哀想だな~」っつってバンバン商品を買ってもらえたんです(笑)。でも、震災1年後くらいでしたかね、ある催事会場でお店を出していると、その前を通りかかった女性二人が「いつまで震災なんて言ってるのかしらね」と喋っていたんです。別に私に言っていたわけじゃないんでしょうけど、それが耳に入ってしまって。それが胸にグサッと刺さったんです。その時まで私たちはマッチ売りの少女状態で売っていたんですけど、「あ~このままの売り方ではダメだな」と思って。じゃあ「容易でない南相馬から来てるけど、こんなに元気があるのね」と思ってもらえるようにしようと、そこから「元気」を売りにしようとやり方を変えたんです。だから、その事に気づかせてくれたその女性二人には、今は感謝です。言われた時は「何なんだ、来るなって意味かな」と胸に刺さりましたけど。でもそこから「元気にしよう」と、ずっとやって来れてますからね。

――結構関東や東京の人なんかはドライですからね。二度ほど川越のマルシェでチーズのみそ漬なんかを販売させてもらった事があって、最初は完売したんですけど、二度目は「いつまでやってるんだ」なんて雰囲気もあって、売れ残っちゃいましたね。今自然災害と言えば熊本の地震の方がタイムリーだし、自然災害は毎年日本のどこかで起きているわけで、お涙頂戴的なやり方じゃない、別のやり方にシフトしていく必要はあるんでしょうね。

~続~

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