ダイアログインタビュー ~市井の人~ 高橋秀典さんさん 「『認めて貰える居場所』づくりの旅」5

高橋 たこ焼って、出来立てが一番美味しいですよね。出来立てのタイミングでお客さんが来てくれるなら、ベストのものを出せるんですけども、お客さんは、たこ焼が焼き上がってから10分後に来るのか、30分後に来るのか、はたまた1時間後なのか…当然分からないんですよね。売れるときはバタバタっと売れるけど、3時間くらい売れない時なんてのも意外とあるんですよ(笑)。

――そりゃまぁそうでしょうね(笑)。

高橋 それを、ベストの状態で出すとなると、出来立てを待ってもらうしかない。かといって、たこ焼の為に10分や15分待ってくれるお客さんばかりかというと、待てるお客さんばかりじゃあない(苦笑)。

――そこのジレンマって、どう解決していくんですか?

高橋 んで、それを私はたこ焼屋を始めた時、「ベストの状態のたこ焼を出し続ける事が一番だ。」という事ばかりを考えていたんです。「そうすればお客さんは絶え間なく来てくれる(笑)!」というような理想のもとに商売は始まったわけです。確かに開店当初はそんな感じでお客さんは来てくれたんですけど、やっぱり3~4か月経ってくると、アツアツのたこ焼を食う季節じゃなくなってきたりもするし、飽きてくる人も出てくるし。最初は毎日来てくれていたお客さんも、店に来る回数も週に一回、月に一回と段々と減ってくる。するとある時「あれ?1時間もお客さんが来てないな」「2時間来てないな」という状態が起こる。んで、そんなタイミングで来たお客さんに、出来立てでは無いたこ焼を出してしまう。その時は「ベストのものを出す」という事しか考えてなかった事もあって、お客さんがタイミングよく来なかった時にどうするかというノウハウが無かった。お客さんの回転が良かった時に出せていたベストのたこ焼が、ベストの状態で出せないという状況になった時、当時はそれに対する答えが無かったんですね。そこで打ちのめされたわけです。評判が悪くなったり、ますますお客さんが減ってしまうという形でね。

――はい…。

高橋 その反省も含めて、また試行錯誤しちゃうじゃないですか。「ベストな経営って何だ」とか「どうすればお客さんから認められるのか」とか。

――例えば「冷めても美味しいたこ焼」とか?

高橋 そういう事も含めてです。次に考えた事が、「作り置きせずに注文を受けてから作ろう」と思ったわけです。お客さんには「待ってもらってでもベストなたこ焼を」とね。でも、当時出店していた原町のお店の前の道路って、路上駐車の取り締まりが厳しかったんですよ。そうすると、お客さんが待ってる間に、警察から注意されたりしちゃうんです。「ナンバー○○の車両、移動してください!」なんてね(笑)。そうするとお客さんの中にはヤキモキしちゃって「待てない!」と言い出す人も出てくる(苦笑)。「ベストのたこ焼が出せなくなった」「ベストのたこ焼を出すためにお客さんに待ってもらうようにしたら、待てないと言われた。」という具合に、次々に違う理由で凹まされていく。経営も成り立たせないとならないし、理想のたこ焼も追及したいし。ならどうする?…速さを選ぶのか?理想を選ぶのか?もしくは違う場所に店を構えるのか?…色んな事に迷いながらやってましたね、30代でお店を出した当初は。「形を変える」のか、「理想を変える」のかみたいな感じでも、結構悩んだ時代でしたね。今は45歳になりましたけど。

――「形を変える」のか「理想を変える」のかですか。ある意味究極の選択ですね。

高橋 原町でお店を出してた頃は、「炭火焼鳥たこ焼処 円達」だったんです。私は大阪で修業したんですけど、修行時代に学んだのが、主にたこ焼とお好み焼きと焼き鳥だったんです。そこで仕込から全部学びました。原町のお店では、たこ焼と焼き鳥の二本立てでやっていました。けど、たこ焼にしても焼き鳥にしても、お客さんを待たせてしまう…と。原町のお店は立地的に難しかったですね。

――時間がかかってしまう事と美味しいものを提供する事、お店を鹿島区に引っ越す事で、この二つの事柄に折り合いを付けたんですか (現在「たこ焼 円達」は、鹿島区のツルハ・ドラッグというドラッグストアの敷地内にあり、駐車場などはツルハ・ドラッグと共有している)?

高橋 えっと、もともと地元は鹿島でしたし、たまたま立地的にいい条件で借りられるスペースもあったんで、鹿島にお店を出す事にしたんです。場所的に良かったという部分が大きかったですね。

――どういった点が良かったのですか?

高橋 今のお店はツルハ・ドラッグの敷地内にありますし、ある程度お客さんに立ち寄ってもらいやすい環境にあるので、回転率は上がるし、駐車場の問題も解決しましたしね。

――鹿島のお店は震災前から営業してたんですか?

高橋 はい震災前からです。

――じゃあここに仮設商店街が出来たのはたまたまなんですね(鹿島区の仮設商店街「福幸商店街」は「たこ焼 円達」のあるツルハ・ドラッグの、道路を挟んだ向かいにある)?

高橋 そう!たまたまです。今の場所に「たこ焼 円達」が出来て8年になりますね。鹿島のお店は回転率もいいので、ベストとベターなやり方を組み合わせたやり方が出来てるんですけどね。回転率が良ければどんどん焼いて出して行けるので、ベストなものを出せる確率が高くなってます。

――「たこ焼スタンド」のようなスタイルに近くなってるんですね。

高橋 たこ焼に一番重要な事は、やっぱり商品の回転率だと思うんです。どんなにベストなたこ焼を作れても、ほどほどに回転率を維持出来ないと、品質は維持出来ない。いくら鉄板の上に置いておいて冷めないようにしても、時間が経ってしまうと、水分が失われて固くなってしまったり、しぼんでしまったりしますからね。美味しいたこ焼を提供していくには、ある程度の回転率が必要だという事に、気づいたというか何と言うか(苦笑)。という事も含めて、ベストとベターな状態を組み合わせていけるようなやり方をやって行ける状態が、今の鹿島のお店のスタイルとして出来上がったという感じです。

――お店を開いて10年ちょっとで、一つの着地点を見つけたって事ですかね。だとしたら、今良い状態なんじゃないですか?

高橋 そうですね。そういう意味では凄く良い状態ですね。30代の頃にもがいた事って他にもいっぱいあって、例えば「出店」を出したら良いんじゃないかとか「たこ焼キッチンカー」みたいなものをたくさん作って、たこ焼をセントラルキッチン方式で出したらどうかとか(笑)。そんな事を考えてましたね。あとは名物を作ろうとか(笑)。

~続~

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