ダイアログインタビュー ~市井の人~ 梅田守さん「この街で暮らす『芯』とは」5(最終回)

◎これから地域とどう関わっていくか

――気のせいかもしれないですけど、この街ではよその地域と比べて、ホンダ車をたくさん見かけるんですよ。今は軽自動車が多いみたいですけど。

梅田 この地域はね、全国的に見ても、ホンダ車のシェアが指折りに高い地域なんです。ホンダ車のシェアって、全国平均で大体十三~十四パーセントくらいなんだけど、この地域は二五パーセントを超えている。これ、新車の販売シェアでね。四十%パーセントを超えている時代もあったんです。この地域ではトヨタより高いシェアでね。昔からの積み上げで見てみると、走っている車の台数はトヨタより多いはず。

――この町でホンダ車を見ると、やっぱりこの会社のことが思い浮かぶんです(笑)。「ホンダカーズ南相馬って元気なんだな~!」と。お話を伺ってみると、本当に元気なんだなという事が分かりますね。これから先、会社としてこの街に益々貢献していくようなヴィジョンってありますか?

梅田 昔からのイメージで、高齢者の方々からは、うちの会社は「あぁバイク屋だね」というイメージがあってね。もっとホンダの正規ディーラーとして認知して戴けるよう努めていきたいな。それにこれから先も、商売を通じて、子どもたちだったり、お年寄りだったりといった方々に貢献できる様な仕事を……子供たちの育成をできる様な事をやっていきたいな。例えば、職場体験みたいな形で、小学校低学年の子どもたちなどに整備の現場を体験してもらうとかね。小学校高学年の子供たちの社会科見学や、中学生の職場体験の授業、高校生のインターンシップなどは、今までに受け入れていたりします。もっと年齢を下げて、将来の仕事に対する想いを育てる学びの場を提供できたらいいなと思ってます。

――そういった事をもっと広げて、将来この町がどんな場所になったらいいなというイメージはありますか?

梅田 子どもたちが減ってしまったけども、地元を離れた子たちも「地元に戻って働くんだ」という思いを持ってもらえるような活動に、何か関わりたいなと思ってる。今の子供たちが、将来この南相馬に戻って、地域を支えてくれる……そんな街を作る事が、今この時代を任せてもらってる大人の役割じゃないかな。

――地域外に出て勉強することは良い事ですけど、「帰ってこられるような受け皿を作る」のは必要ですね。

梅田 その為には、今この街にある会社が元気でいなくちゃならないからね。

――人が出ていく事のみに注目していると、街は寂れていく一方ですからね。

梅田 そこにばかり焦点を合わせてしまうと、おかしな方向に行ってしまうよね。軍曹のように、この南相馬に魅力を感じて居ついちゃった人もいるわけだし(笑)。

――いや~魅力的な街ですよ南相馬は(笑)。梅田さんはどうです?この街好きですか?

梅田 「大」がつくくらい好きですヨ! 何というか……人の顔が見えるところが良いよね。特に震災後、心ある人は自分でできることを模索して、それを行動に移してる。震災があったことで、そういう部分が見えてきた。そんな「想いのある人がたくさんいる」という事は、この街の何よりの魅力だと思う。「人の魅力」だな。

――ところがこの地域の人って、自分の街を自虐的に見る傾向があるんですよね。奥ゆかしさの表れかもしれないけど。そこはもったいないなという風に思います。

梅田 震災がなければ、南相馬にいる私たちも魅力に気づけなかったかもしれない。人口減少も加速して、街の将来についても悲観的な考え方をする人たちばかりだったかなぁ。震災がなければね、ここは他の地域よりもそういう傾向は強かったかもしれない。自分の地域の良さに気付けない人が多かったかもしれません。震災を経験したことで、この地域良いところを引き出そうという想いがみんなに広まったんじゃないかな。

――もちろん震災は不幸な事でしたけど、そういう、地域の視点の変化や人との関わり方の変化といったパラダイムシフトがあったなら、それは良い事ですね。良い街を作っていけたら良いですね。その「良い街」を作るために、梅田さんが考える一番必要な事って何ですか? 経営という観点からお答えいただいてもでも良いですよ。

梅田 う~ん……地域の経済が回らないと、人の動きも活気も生み出せないと思う。今会社経営をしている人達が、自分の商売を通じて地元に何ができるかを模索すること、行動すること、それが地域貢献なんだと思う。特別な何か……例えば箱モノを作ったりするとかではなくてね。自身の商売を一所懸命にやることで、ご利用頂くお客様に満足を提供していく。そこで働く人たちが活き活きとした職場づくりをしていく……という日常のサイクルをきちんと整えることだよね。

――地域の経済、経営を発展させる……「受け皿づくり」とは、まさにそういうことかも知れませんね。

梅田 さまざまな事を体験したからこそ、出来る事、考えていける事があると思うんだな。

――南相馬は壁を乗り越えてる最中ですけど、ちょっと見えてきたものもありますよね。地域の会社が、経済が、経営者が元気な街か……。作りたいですねそういう街を!

梅田 そして、そこで働く人が活き活きとしてる街ね! そこがないと人は来ないですから!

――いいお話を伺えました!有難うございました!


インタビューは正味1時間半にも及んだ。インタビュー以外の時間も含めて、2時間以上お時間を取っていただき、本当にじっくりとお話ししていただけた。地域づくりのコンサルタントでも、NPOに所属する活動家でもない、地域に根差す企業の経営者としての梅田さんのお話は、夢見がちな理想論ではなく、理想を求めつつ、終始きちんと地に足の着いた、芯のあるものだったなというのが、インタビューを終えての私の率直な感想である。
インタビューの中でも、梅田さんからは「芯」という言葉が出ていた。そこで思う。梅田さんにとっての「芯:」は、人を大切にするという事なのかもしれないと。失礼な表現になってしまうかもしれないが、例えるなら「鉛筆のような人」。つまり、一本芯が通っていて、芯の周りには、木(気)を使っている……と。
何度となく「この街の『人』が好きだ」「人を元気にしたい」という話をされていた。
倫理を学ぶ事も「人に対して丁寧に向き合う」という事なのだろう。「学びを職場の人との関わりに活かしたい」というお話もされていた。
会社経営の話からも「共に働く社員への気づかい」を強く感じた。
そうした事からも、人に対して丁寧に接しておられるんだなと感じるのである。
そんな梅田さんも、震災直後の混乱期は途方に暮れたという。そんなお話を伺った私は、不謹慎ながら「やっぱりそうなんだ」と変に納得したのだった。
梅田さんも、戸惑いの中、試行錯誤で今の心構えと考え方を築いてこられたのだ。
今の南相馬は、まだまだ街ごと大きな迷路の中にすっぽりとはまってしまっている。だけど、このインタビューで伺えた梅田さんのお話が、行く先を指し示す羅針盤のように、進むべき方向のヒントを示してくれているように、私には思えるのである
~了~

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