雨の路面電車
私が生まれ育った町には路面電車「都電荒川線」が走っている。一車両で、バスくらいの大きさ。
車線と交わり、自動車と並走する区間もある。時には歩行者くらいの速さでトコトコ走る。急な坂を一生懸命登り、カーブも一生懸命ゆっくり曲がる。
一番好きなのは、民家の間をすり抜けるように走る区間。
線路と民家が一枚の扉で直結してるところもある。
中には線路に生えている植物と一体化していたり、線路との境の塀に洗濯物を干してるお宅もある。都電の窓から、一軒一軒の暮らしを覗き見しているようでドキドキする。
この梅雨の季節は、蜃気楼のように景色が霞み、
ホーム(地元民は“電停"と呼ぶ)で雨宿りしている人もいる。雨露に濡れる草が青々しく、時たま猫が駆け足で線路を横切っていく。
景色と営みが、車窓に流れていく。
停車しドアが開くたびに聞こえる、ポツポツとアスファルトに跳ね返る雨音。
電停で「暑かったのに、いきなり肌寒い雨ね」とご年配に話しかけられた。
柵には「ご自由にお使いください」と、近隣の人やボランティアによって集められたビニール傘たちがかけられている。
都電は、どこか人肌を感じる。
この町は東京でありながら、都心に比べると流れるスピードがゆっくりとして、人との距離感が近い。それを象徴しているひとつが、この都電だと思う。
時代劇小説家は当時のイメージを体に染み込ませるために、老舗や古い町に出向くと読んだことがある。
私は、公共とプライベートが曖昧で、合理性よりも時には情が優先されるこの町で育った。
身に染み付いた下町の性質が好きで、そして開発などでそれが消えていくのが悲しいから、この町の良さを残そうと働いているのだと思う。
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