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幼児にむけたカードゲーム『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』はこうして生まれた! ディレクター日誌【その5】

試行錯誤を経て、無事に完成を迎えた『TRIO APARTMENT(トリオ・アパートメント)』。

【幼児が初めて手にするカードゲーム】と言うコピーと共に、クリスマスを控えた12月頭という最高のタイミングにデビューを飾ることができました!

「すべてが可愛くて洒落ている。」「ゲーム自体が魅力。」「子どもたちに多様性や優しさも教える。」

などなど、お取引先様をはじめ皆さまからも嬉しい感想をいただき、デビュー間もなくして“文化を喫する、入場料のある本屋”として話題を集める文喫 六本木店さんで皆さんと一緒にトークイベントを行いました。

そのイベントで総合プロデューサー、アドバイザーとして導いてくださったアシストオン店主 大杉さんが、今回のコラボレーションについてとても興味深い考察をお話しくださいました。 最終回はその深い考察をお届けしたいと思います。

※下の写真がそのトークイベントの様子です。
左からアシストオン店主 大杉さん、弊社戸田、ワタクシ大澤、
idontknow.tokyo 角田さん、青木さん、治田さん。

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■それぞれのアシストオン。

まず最初にアシストオンさんについて、改めてご紹介したいと思います。

アシストオンは良いデザイン、優れたインターフェイス、使う楽しさを与えてくれるような製品を提案。セレクトは国内外を問わず、提案型雑貨店のレジェンドとも言えるお店です。

店主大杉さんのデザイン、モノへの広く深い眼差しは、買う人たちだけでなく、たくさんの作り手からも絶大な信頼を集め、今もアシストオンに置いてもらうことをひとつの目標としている方々がたくさんいらっしゃいます。

戸田デザイン研究室もidontknow.tokyoさんも、それぞれにアシストオン=大杉さんからたくさんのことを学んできました。

アシストオンさんと弊社はもう20年近いお付合いになります。
弊社の『リングカード・シリーズ』に大杉さんが目を留めてくださり、そこからお取引がスタート。

今ではいろいろな雑貨店、百貨店でもお取扱いいただく弊社ですが、書店以外でのニーズを最初に拓いてくださったのがアシストオンさんでした。

「これはもう絵本・本と言うカテゴライズを離れて、プロダクトとして面白い。デザインにも魅力がある。」
大杉さんにいただいた評価は、私たちのモノづくりの本質に目を向けるきっかけとなり、新しい道を照らしてくれたのです。


そしてidontknow.tokyoさんも、大杉さんに立ち上げからアドバイスをいただいたそうです。

idontknow.tokyoは「TENT」の治田さん、青木さん、「twelvetone」の角田さんが合同で立ち上げたプロダクトブランド。それぞれの強みを的確に捉えていた大杉さんのアドバイスが、今のidontknow.tokyoを作る後押しとなりました。

そんな大杉さんが プロデューサー的な視点で今回のコラボレーションをご覧になった時、『TRIO APARTMENT』がちょうど両者のクロスポイントに位置すると感じられたそうです。

では、そのクロスポイントとはどこにあるのか?それを探る大杉さんの考察をご堪能ください。

・アシストオンさんはコチラから:https://www.assiston.co.jp/


■言語、非言語という視点。

戸田デザイン研究室の出発は1982年。
現在の代表であり作り手である戸田靖の父、戸田幸四郎(1981-2011)が『あいうえおえほん』という1冊の絵本を作ったことからスタートしました。

まず大杉さんはこの時代に着目されていました。

1982年と言えば、世はオーディオ・ビジュアル時代。レーザーディスクやコンピューターゲームが登場し、これからは活字でなく映像の時代だ!という勢いに満ちていた。

そんな時に戸田幸四郎は『あいうえおえほん』をぶつけてきた。フリーデザイナ―として広告も含め様々なデザインを手がけていた幸四郎が、時代の流れに気がつかない訳がない。

世の中が見る・聴くに一気に傾倒した時代に、あえて言語デザインをあててきた。作品中のイラストも言語的なものを捉え直すような力があり、実にデザイン的である。

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※『あいうえおえほん』


その後『あいうえおえほん』から続く作品も、繰り返し非言語的なものと言語的なものを捉え直していて、これが戸田デザイン研究室らしさとなっていった、と大杉さんはお話くださいました。(いや、本当に、目からウロコ…。)

そうして言語と密接に繋がってきた戸田デザイン研究室。戸田靖に引き継がれた後も、この流れを継いでいきました。

「やはり戸田デザインはこの感じでいくんだな。」大杉さんもそう思われていた2015年。戸田靖はこれまでと違うものを携えて、大杉さんのもとを訪ねました。

それが木工玩具『Baby piece(ベビーピース)』。『Baby piece』には文字が一切ありません。片面にはイラスト、もう片面には形と色の異なるドットのみ。

言語から非言語へ…。大杉さんはこれを見た時に「30数年やってきたことと、戸田さんは遂に違うことを始めたぞ!今までと違う勝負に出る気なんだ!」と思われたそうです。
(確かに『Baby piece』以降、ディレクターの私から見ていても 戸田のモノ作りは自由になっていったと感じます。)

・『あいうえおえほん』についてはコチラ:https://toda-design.com/?pid=106818699

・『Baby piece』についてはコチラ: https://toda-design.com/?pid=106818815


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※『Baby piece(ベビーピース)』

さて一方の idontknow.tokyoさん。こちらは私たちと真逆の歩みだと、大杉さんは語られます。それはまず商品名を見れば明らかだと。

例えば以前にもご紹介した『HINGE(ヒンジ)』『CUBOID(キューボイド)』。これらは商品名からどんなものなのかまったく想像できない、言語からとても遠い所にある製品だと仰るのです。

・『HINGE』についてはコチラから: https://idontknow.tokyo/hinge.html

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※『HINGE』

さらに余分な説明も省いている。今までデザイナ―が作るプロダクト製品は、バックグラウンドを含む説明で価値を生み出す部分もあった。
ちょっと乱暴に言えば、デザイナ―とう言う存在の高みを上げて価値を増幅させる…そんな面もあったのかもしれません。

しかし彼らのやり方は製品自体も打ち出し方も「こんなの作ったよ。実際にモノを見て、良かったら買ってね。」というフラットな雰囲気が漂い、意図的に従来のマーケティングとバッサリと手を切っている。

これはひとつの確信的な企みだと思ったそうです。
そしてこれを突き詰めていくと、モノの背景を含め推し出して行くお店の出番さえ失われかねないとも真剣に思われたとのこと。

だからidontknow.tokyoの皆さんに「アシストオンさんで、どうやって売ってもらえますか?」と聞かれた時、「自分たちでメディアを作り発信していくべきだ。」と助言されたそうです。

そのアドバイスがidontknow.tokyoの今のスタイルを作りました。

自ら製品について語り切るWebページ、イベント、そしてPodcast配信。ここまでやっても押し付けがましさがないのは、製品や商品名から言語的な要素が省かれているからこそ。

そして使う人たちと同じ目線で語りかけるアプローチはユーザーとの関係性をフラットに保ち、会いに行きたくさえなる。それはidontknow.tokyoの大きな魅力です。(実際、私がidontknow.tokyoさんに強い興味を抱いたのは、このアプローチがあったからこそでした。)

■ちょうど交差点にいる。

さぁ、ここからいよいよクロスポイントが浮き彫りになりますよ!

言語的なモノ作りでプロダクトの方向性を固めていった戸田デザイン研究室。戸田靖の代になり、非言語的な表現に踏み込み始めた時にこの『 TRIO APARTMENT』制作がやってきた。

ルールはあれど文字での訴えは排除され、色彩とイラストのみで作り上げる世界。その文字を排した作り込みはケースの細部にまで及びました。まさに強烈な言語から非言語への歩み。

かたや非言語的なモノ作りから出発したidontknow.tokyoにとって『TRIO APARTMENT』は今までになく言語的なモノ。

「天使」「悪魔」「人間」という設定が既に強い言語性=意味を持っていて、その意味を汲んでいくのというのはの今までになく言語的なアプローチである。

つまり戸田デザイン研究室は【言語→非言語へ】、idontknow.tokyoは【非言語→言語へ】
2者の歩みが交わる交差点に『TRIO APARTMENT』は存在すると大杉さんは分析されました。(確かに〜!!!)

さらに大杉さんはこうも続けられました。

デザイナーをはじめ、モノを作る人たちが「この人たちなら、またこうしたテイストの作品をしっかり作ってくるだろう。」そう思われることも大事。しかし時に実験的なモノを作ることで、また新しい扉が開くこともある、と。

これはこのコラボをを通じて私が感じていたことそのものでした。

■今、振り返ると…。

お陰さまで弊社はロングセラーにも恵まれ40年近く歩み続けることができました。その間、モノ作りを担ってきたのは戸田幸四郎、そして戸田靖。この2人に流れるエッセンスで築かれていきますから、当然トーンもマナーも強く決まってきます。

大杉さんのお話にもあった「この人たちなら、またこうしたテイストの作品をしっかり作ってくるだろう。」という部分には、しっかりお応えできるだけの力を蓄えてきたと思います。

課題は【新しい扉をどう開けるか】。
これは、私が弊社のブランディングを含むマネージメントを担った当初から見えていた課題ではありました。少しずつ挑戦を進めてきましたが、起爆剤はどなたかと一緒に作ることかも知れない…。

しかし、本質的な部分を共有でき、互いにリスペクトできる関係がなければ良い着地にはならないことも分かっていました。

今回のコラボレーションはその条件を軽々と飛び越えていき、関わった私が言うのも気が引けるのですが「本質からブレない作り手同士のやり取りは、すごいものだ。」という感覚を何度も味わいました。

実際に製品を手に遊んでくれる方々の使いやすさだけでなく、気持ちにまで徹底的に寄り添うidontknow.tokyoの皆さん。

弊社もこうしたアプローチの強さには自信がありましたが、まだまだやり抜ける!と教えていただいた気がします。

今だから告白しますが、私の立場からするとちょっとした懸念もありました。

お互いにこだわりも強い者同士…。
もしなにか意見が分かれて一触即発の空気になったらどうしよう…。そんな心配をしたこともあります。
(その時の場の収め方を、お風呂に浸かりながらシュミレーションしたことも。)

しかし実際にスタートすると、そんな懸念はどこへやら。お互いに同じゴールを描き進んでいくと言う、とても良い空気が流れていました。idontknow.tokyoの皆さんも弊社の今までの積み重ねや姿勢を大切にしてくださいました。

弊社の戸田も皆さんの素晴らしいアイデアを取り入れながら、本質から考える・手を動かす・「これだ!」と思うまでとにかく作る!

“モノ作りに妥協なし。” 戸田の強みは以前から分かっていましたし、内輪を褒めるのもおかしな話ですが、改めて「よっ!親方!」と思わずにはいられない瞬間の連続でした。

「良いデザイン、美しいデザインの外側に、使う人それぞれの美しさ・豊かさがある。」これは大杉さんからお聞きして、強く心に残っていることばです。

今回、実際に完成品を目にした時「自由に遊べる箱庭ができた!」と感じた思いは、これに近しいものではないかと思っています。

しかし!本当の勝負はこれからです。モノの良さは、お客さまに実際に感じていただいてこそホンモノ。

だからこれからも、頑張って 『TRIO APARTMENT』を売っていきます!皆さんも本屋さんや雑貨屋さんで見かけたら、ぜひお手に取ってみてください。

そしてどうぞ、手にしてくださった方それぞれの『TRIO APARTMENT』の世界が豊かに広がっていきますように…。

※これで戸惑いとワクワクのディレクター日誌は完結です。最後までお付合いくださり、ありがとうございました!

最後はidontknow.tokyoの皆さんの素敵なスマイルで締めます!

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