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恋愛における理想と現実:谷崎潤一郎

「どういうタイプが好みなの?」
あまりにも出会いに恵まれないものなので、友人に紹介をしてほしいと頼む事もしばしばあるのだが、こうやって問われると難しいものでして。
というのも、私が理想とする女性と実際に好きになる女性のタイプには大きな乖離があるからなのですが。

こういう女性と良好な関係を築きたい、という理想はある。
明るく、聡明で、思慮深く、心身ともに健康的で、可能であれば料理上手で、できる事なら2つか3つ年上で・・・。

それでも、実際に私が好きになる女性、関係を持った女性というのは、
お世辞にも明るいタイプとは言えなかったり、あまり賢い人間ではなかったり、精神的に病んでいたり、包丁すら殆ど握ったことがなかったり、1つや2つ年下だったり・・・。

勿論、皆が皆理想から大きくそれているわけではないのですが、ほとんどの場合私にとってあまり好ましくない問題を抱えている。
断っておくきますが、自分の理想を叶えてくれる女性なんていない、と思っているから仕方なくそういう女性を選んでいる、というような種類の恋愛ではありません。
その時その時で、私は彼女らのネガティブな側面も含めて恋をしたわけです。

どうも私は所謂「ダメな人」を好むきらいがあるらしい。
昨今「強い女性」像というのが社会的なムーブメントの一流をなしている。
男女共同参画社会を目指す我が国の潮流は強い女性、働く女性、自立した女性、ポジティブな女性をロールモデルとした女性像の構築に精を出している。
勿論、男女平等というのはそんなに簡単な話しではないので、深い議論はまた別の記事で書くとして、
そういう強い女性を私は好きだ。
金銭的には互いに自立し、必要な時には支え合うだけでなく、私が誤った道に進みそうな時には正しい道にリードしてくれる。
そういった関係を築くことができればどれほど嬉しいものでしょうか。
それでも私が付き合う女性というのは、どこか危なっかしいところのある女性ばかりで、一人で生きていくには何かが圧倒的に欠落していて、自立とは程遠いところに住まっているのです。

強く聡明で明るい女性を求めながら、脆く危なっかしい女性を好きになるし好かれる。
そういう女性も好きになっているのだから自分の求めるタイプという物はどんどんあやふやになる。
どうも奇妙な恋が物心ついた時から続いている。

谷崎潤一郎

谷崎の小説はどれも美しい。
近代日本語、古語、漢語、それから西洋の言葉が絶妙なバランスで織り交ぜられています。
ただ、その書き口、語り口だけでは彼特有の美しさはでない。
彼は多くの作品で非常に奇妙な恋模様を描いているのであり、これこそがあの禍々しい美しさを生み出していると思うのです。

代表的なものが「痴人の愛」です。
ある男が喫茶店で見つけた美しい女給を自分の元に迎え、自身の理想とする女性に育て上げようとするが、逆にいいように使われるというこじれた恋愛話。
私はこの小説を日本の元祖近代SM小説と呼称しているのですが、谷崎はこの拗れた恋愛話を非常に巧妙な文体を以って、奇妙ながらも引き込まれる、まさに美しき魔女のような作品に昇華しています。

他にも盲目の琴奏者とその弟子の恋愛を描く「春琴抄」、妻が恋人の元へ通う事すら公認する仮面夫婦の姿について書いた「蓼食う虫」、惚れた女の身体に墨を入れる男とその女の掛け合いが描かれる短編小説「刺青」など、彼の小説には男女の奇妙な関係が多数用いられています。

そんな彼の小説にも様々な形の「理想と現実との乖離」が描写されています。
一例として痴人の愛を上げると、
本作では主人公の男は手元に置いた女を自分の意のままに動くよう教育しようと努めます。
始めの内は彼に対して従順な彼女も、いつの間にか自身の願望を持つようになり、あの服を着たいだのあれを習ってみたいだのと我儘を言い出す。
理想的な女性にするためだと思い彼女にある程度の自由を与えたは良いものの、次第に彼女は浮気までするようになる。
彼女は見た目こそ理想的な美しい女となったが、それ以外の性格や行動に関しては決して褒められたものとは言えないものとなってしまった。
しかし男はその理想と乖離した現実に、「これではいけない」と思いつつも恋焦がれてしまうのです。

さて、私の大好きな谷崎について話しをすると、それこそ彼の小説並みに長くなってしまいそうなので、敢えてここらで切り上げるとして。
私はかなり自分の恋愛の妙な癖に悩んできたものですが、彼の小説にはそういう私を救ってくれる何かがありました。
耽美派とまで言われた谷崎潤一郎。
そんな彼の最大の武器はただ文章の美しさであったのではなく、「恋愛における妙な癖」の引き出しの多さにあったのではないかと思います。

人間だれしも多かれ少なかれ恋愛における癖があるのではないでしょうか。
それは恋愛対象を選ぶ時に出てくるのかもしれませんし、初めてのデートで発症するかもしれませんし、はたまた夜の営みの時に顔を出すのかもしれません。
ですから、相当気の置けない友人なんかにしか話せない事かもしれませんし、だからこそ「自分だけなのでは?」と不安になる事もあるでしょう。
それでもみなさんの多種多様な恋の癖の処方箋を谷崎は持っている。
だからこそ谷崎は今でも多くの読者から愛されているのかもしれませんね。

というわけで、今回は私の恋愛に関する悩みと谷崎文学のお話でした。

それではまた今度・・・。

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