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あれからお化け屋敷は入っていない

「13歳以下のお子様にはおすすめしません」
和服に身を包んだ、顔色の悪そうなお姉さんが申し訳なさそうに言う。
そういや、ついさっき、12〜3歳の女の子たちが、転がるように出て来てギャーギャー泣き叫んでいた。
太秦映画村のお化け屋敷である。

小4の娘たちが入りたいというので入り口まで行ったのだが、お姉さんが、娘たちをチラとみて、割と本気でやめた方がいいという。
入り口にあったポスターにはこう書かれていた。
史上最恐のお化け屋敷「呪われの人形」


…おおおお…
これ、あんたたち絶対無理そうよ、やめとこ?
お姉さんもこう言ってるし!
お母さん、自分で歩くスタイルのお化け屋敷の恐ろしさ知ってる!


そう。私は、お化け屋敷の恐ろしさを知っている…


あれは20代の頃だ。
女友達と3人で遊園地に遊びに行った時だった。
この3人は、幾多の貧乏旅行を乗り越えている仲間である。


恐ろしい夜もあった。(シャワーが壊れたり鍵がかからなかったりした)
暗闇で彷徨う夜もあった。(ガソリン少ないのに迷子になった)
誰にも頼れない夜もあった。(夕飯が手に入らなかった)

そんな私たちなら大丈夫!
お化け屋敷に入ってみよう!ということになった。

正確には、まっつんが言い出して、ぐん子が「絶対イヤー!」と言って、私が「おおう…!」とビビりながら嫌がるぐん子の背を押す形式だ。
こういう時、まっつんは大体前進あるのみである。

お化け屋敷といえば、ディズニーランドのホーンテッドマンションとか、子供向けの小さなお化け屋敷しか体験したことがない。
目の前にあるのは、「日本一長い!」と謳われていた気がする。
いや、記憶が曖昧だから、本当に日本一だったかわからない。
ただ、とにかく、今まで経験してきたお化け屋敷とはレベルが違うことは確かだ。
正直、めちゃめちゃ怖えぇぇぇ…!!

だけど、本格ホラーというものを一度体験してみたかった。
それに、所詮は人間が作っているお化けだ。
言うても仮装やろ。
私は、嫌がるぐん子を説得しつつ、自分を奮い立たせていた。
まっつんは、前進あるのみだ。

そこそこ混んでいたお化け屋敷だった。
少し並んで、ようやく入り口に着くと長いロープを渡された。
「5〜6名のグループになっていただきます。ロープを掴んで、ゆっくり進んでください」

私たち3人と、カップルの2人が同じグループになった。
「よろしくお願いします〜」私たちは能天気にそのカップルに言ったが、お姉さんは彼氏と2人でラブラブ進むつもりであったのだろう。割とそっけない態度をされた。

そうして突入したお化け屋敷。

叫び声しか聞こえなかった。
ありとあらゆる場所から、お客さんたちの絶叫が聞こえる。
そして、ほぼ何も見えない暗闇。
あんなに前進あるのみだったまっつんが「ギャーーーア!!!」と叫んだもんだから、ぐん子は完全にパニックになっていた。
ものすごい力で体を掴んでくる。
「待って待って!そんなに掴んだら歩きづら…ギャーーーーーーァ!!」

それはオウム返しの設定を施された人形のごとしである。
「ギャーーー!!何!?何!?ギャーーー!!」
「ギャーーー!!ちょっと急に叫ばないで…ギャーーー!」
「ギャーーーー!!!」
永久に終わらない叫びの連鎖。ムンクだって休憩タイムぐらいあったろうよ。
こんなに叫んでいるのだから、脅してくる方ももう少し手加減すりゃいいのに、奴らはわざわざ追いかけ回してくる。
「ギャーーーー!!しつこいッ!!」
「ギャーー!!絶対あそこになんかいるーーー!!」
「出てきたらぶっ飛ばす!!泣」

私たちは思い思いに叫び倒した。
ロープを持つ感覚なんてとっくに忘れている。
好き放題に立ち止まり、走って逃げようとし、抱き合う。

カップルのお兄さんが先頭を歩いてくれていて
「狭くなりまーす」とか「なんか変な穴がある、気をつけて!」とか言ってくれていた。
それは彼女さんに向けてだったかもしれないのだが、私たちはお兄さんに頼り切った。
「ムリムリムリムリ!!!ど、ど、どんな穴!?」
お兄さんも怖いはずだが、懸命に答えてくれる。
「いや…ちょとま…おおお!!ビビった!!」
「ギャーーーー!!!」
会話は常時この状態で進む。お兄さんは完全に引率の先生と化していた。

そうしてようやく「出口だ!」
お兄さんが私たちに言う。
「やったー!!!」

外の強い光に当たり、一息着いてよく見ると、私は彼女さんのリュックを鷲掴みしていることに気付いた。
「あ!ごめんなさい!」
慌ててリュックから手を離し、ヘラヘラ笑いつつ「怖かったですねぇ!」と出口にたどり着いた感動を分かち合おうとした。

ところが彼女は、持っていたロープを地面に叩きつけたのである。
いや、実際は振り払っただけだった気もするが、とにかくそれがメンコ対決だったら、全て風圧でひっくり返す勢いがあった。
「お、おい…」と言う彼氏さんの手をも振り払い、私たちに猛烈な睨みを効かすと、そのままズンズン!!と。まさにズン・ズン!ガッデム!!といった足取りで歩いて行ってしまった。
め…めちゃくちゃ怒ってるで…!!

「ごごごごめんなさい…!」
私たちは怯えつつ彼氏さんの方を見た。
焦っているかと思いきや「あ、気にしなくていいよ、怖かったねー」と彼氏さんは余裕の笑顔を見せて「それじゃ!」と彼女を追いかけていった。

慣れてるの?それともお気遣い頂いてるの…?
私たちは顔を見合わせたが、とはいえ完全にカップルの邪魔をしたことは間違いない。
「ごめんなさーーーーい!!」と2人に向かって叫んではみたものの、ガッデム状態の彼女さんの耳に入ったかは分からない。

「いつからリュック握ってたの?」
「いや、分からん…」
「相当暴れてたもんねー、うちら…」
「てかあんたうるさすぎるし」
「いやいや、あんたに言われたくねーわ」

私たちは、口々に反省と責任の擦り合いをしてみたが、
「でもお化け屋敷叫ぶよね?」
「てか、彼女の叫び声聞いた?」
「いや、きっと序盤から怒り狂ってたよ、お化けを黙らせるほどに」
と、最終的に、彼女の怒り心頭ぶりに思いを馳せた。

人間の方が普通に怖い…

私たちは最終的にそう結論づけた。
結果、お化け屋敷の内容についてほとんど話すことはなかったし、正直全く覚えていない。
アレだけ叫び倒したにも関わらず、インパクトの全てを彼女さんがかっさらっていったのだ。

歩く系お化け屋敷は、他人に迷惑をかける恐ろしいリスクがあるところ。

お化け屋敷に対する恐怖の方向は、今でも怒髪天を衝くあの彼女である。
後にも先にも、あんなに短時間に見ず知らずの他人からあれほどの怒りを買ったことはない。

私は、アレがどれだけ恐ろしい屋敷か知っているのだ。

娘たちよ。いつかお化け屋敷に入る時は、心穏やかに、ただ純粋に、お化けだけを怖がる体験ができたらいいね、と私は思うのだった。



♯2,000字のホラーで受賞された✨なちこさんがお化け屋敷について書かれてて、ふと20年前を思い出しました。
(だけどお化けは怖いらしい!)

さらに、記事を読んだら、note文化祭がやっているらしいですよ!
えー!楽しそうやないですか!

お化け屋敷以外にもいっぱいありました。おおお!本当に文化祭だっ!

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