詩|黄昏の足跡
みずうみのほとりに病院があって
みずぎわに少女が立っていて
少女なのに 病院に入っていて
ぼんやりと きらきらするみずうみを眺め
そっと寄せて返す小波は
自分が自分がと 少女を責め立てることもなく
まわりを取り囲むこともないので
波の声は大きな空と溶け合い
彼女は理由を聞かれることがないから
いつまでも
長い髪がそよ風になびいて
瞳はターコイズブルーの水面を映す
沈黙のうちに 来た場所をさがし続けて
――もうすぐ散歩許可の三十分間が過ぎる
ただ寄り添っただけのみずうみ
その水際で 少女は
砂を踏みしめる
きゅっ と音がして
音がして 消える
(詩誌『北極星』第59号 収録改)
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