飛田新地に体験入店に行った私の話⑧

●閉店後のお店の中

23時55分になると飛田新地に懐かしいオルゴールのような音楽が流れて、ガラガラと戸を閉める音があちこちから聞こえだし、午前0時には全てのお店が閉店します。

この時間は飛田新地料理組合で決められたものなので厳守されています。守らないと除名で営業できなくなります。きゃー。

玄関の盛り塩を捨てたり、お茶のコップを洗ったりといった閉店作業が終わると、この店のマスターさんが集金にやってきます。おばちゃんから総売り上げと伝票を受け取りそろばんを弾いたあと、女の子とおばちゃんに順番に分配します。（売上の、女の子は半額、おばちゃんは1割が基本です。）

電卓じゃなくて年季の入ったそろばんだったので、渋くて素敵だなぁと思いました。みんなでお礼を言って受け取ります。着替え始めている子は下着姿で受け取ったりしていてそのへん自由です。

私は手にしたことがないような（普通の人は手にしたことがある）額の万札を渡されて「ほげ〜、これを手で持って夜道を帰るの危なくない！？」と思いました。

あと、中にピン札があったんですが、途中のお客さんにピン札で払ってくださった方がいたのを思い出して「あのお兄さんのピン札だぁ…」としみじみしたりしました。

このとき、他の女の子はいくらくらいなのかな、というのはやっぱり気になるところです。温泉で隣を見るときのようなチラ見です。

そんな中、ひとり明らかに泣いている女の子がいました。りんごちゃんです。結局今日はお茶（お客さんがつかないこと）だったのでひとりだけなにももらえません。鼻を赤くして泣いている姿に見ているこっちまで居た堪れなくなりました。マスターさんとボソボソやりとりしています。

●上がらない女の子

りんごちゃんは、ふつうに美人で胸も大きいぽってり唇の20代後半の子です。
最近まで青春通りに座っていましたが、お客さんが上がらなくなったので裏のお店に左遷されてきたということでした。

しばしば「ブスなのに一見がよく上がる」という言葉を聞きます。飛田の女の子はみんなクラスで1番だったくらいには美人なのですが、その中でも非の打ち所がない美人さんよりちょい個性派がよく上がるという現象です。

お人形のような美人さんよりも、表情や色気や個性といった要素が大事なのかなと、今では思ったりします。思うだけで備わりはしないんですけど。

なぜなら表情や色気って鏡にうつらないので自分じゃ分かりません。ていうか他の女の子のも分かりません。女には女の色気をキャッチする受容体があまり無い気がします。だから「ブスなのに一見がよく上がる」という言葉があるのでしょう。

とにかく上がらないものを上げるのは、これといった原因があるわけでなくとても難しいことなのです。

マスターさんが「今日はメインの方も冷やかしばっかりや。給料日前はあかんなー」「体入で急に3人座りしてもろて悪かったな」「正月までは頑張ってみぃな」などと慰めているのが聞こえます。
結局ラーメンでも食いに行こかとなったようで私も行くかと誘われたのですが、なんとなく気まずく、明日学校が一限からあるのでと言って遠慮しました。

●マスターの送迎

店を出ると、マスター（最初に会ったゲームしてた方）が待ってくれていて、「お疲れさま〜！いけそうか？」とまた聞かれました。
お客さんもいい人だったし思ってたより上がってもらえてほっとしてたけど、「お茶じゃなくてよかったです」なんかもうそれだけでした。

帰りはそのままマスターが家まで車で送ってくれたので万札たちも安心そうでした。
車には他の女の子も乗っていて、近くの寮に住んでいる子、高級めのマンションの子、親と住んでいるので最寄駅の裏で降りたい子などさまざまです。服装はみんなラフな部屋着で、こうしてみると飛田嬢には全然見えません。

「誰から行くー？」とマスターが聞きますがみんな遠慮して口を開きません。「朝早い人ー？」と二の矢を継ぎますがまた無言。「え、無視？」と言ってようやく車内に笑い声が起きました。

女の子たちはみな静かで、車の窓からは遠くライトアップした通天閣がビルの間から見えたり隠れたりしていました。

さっきマスターに「どうやった？」と聞かれた時には波立っていた気持ちが落ち着いてきて、見えてきたのは「私にはまだ価値があった」という、しょうもない束の間の安堵でした。

明日も上がってもらえますように、と思いながら目を閉じました。

飛田新地と住民票につづく

体験入店の１日終わりです。（まだ1日目…）
いいねのおかげでなんとか書ききれました！ありがとうございます！！😭
全然書ききれてないので、次回からも初心者嬢としての続きを書きますが、もしお題やリクエストがありましたら書きやすいので助かります🙇‍♀️
いいねするのにログインとか不要なので何卒😭