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ブックレビュー:名作を生み出す〝映像の設計者〟の仕事とは~星山博之著『星山博之のアニメシナリオ教室』

「機動戦士ガンダム」「銀河漂流バイファム」「新世紀GPXサイバーフォーミュラ」など、1970年代から90年代にかけて一斉を風靡したオリジナルアニメ(原作マンガによらないアニメ作品)の制作にチーフシナリオライターとして参画し、数十年後まで語り継がれる名作に仕立て上げる一翼を担った著者が、これからアニメ作品づくりを志す人に向けて書いたアニメシナリオの入門書。著者は本作が出版された2007年に亡くなり、これが遺作となった。

「アニメシナリオ教室」のタイトルが示す通り、(アニメに限らず)今まさにシナリオを書こうとしている人、書きたいと思っている人、書いているが思うようにいかず悩んでいる人に対して、その長年の経験をベースに、講座形式で実践的内容を順序立てて教えるものとなっており、机上の空論に終わらず、すぐに自身の作品にノウハウを反映させてクオリティを高めていくことができるものとなっている。
 だが本書の価値はそれだけではない。著者は原作付きアニメ(「うる星やつら」など)の脚本も多数手がけているが、やはりメインは原作のない、オリジナルアニメの脚本である。その企画段階から関わってきた経験から、アニメを作るとはどういうことか、というところから始まり、伝えたいことは何か、プロット作り、キャラクター作り、企画書ができるまで、といったオリジナル作品が立ち上がっていく経過を追いながら、発想のもととなること、考えるべきこと、なすべきことを実例をまじえながら順序立てて教えてくれるので、アニメのシナリオのみならず、マンガや小説、ドラマやゲームなど様々な創作分野でオリジナル作品を作りたい、と思っている人に、まっすぐに届く内容となっているのだ。

 特に、著者である星山博之氏がメインライターを務め、のちに40年にわたって続くブームを巻き起こすことになった「機動戦士ガンダム」の中から、特に異彩を放つ13話「再会、母よ」を教材としているところは必読である。なぜこの話が生まれたのか、という背景から、起承転結の「結」になにを思い描き、そこからどのようにプロットを起こしていったか、を丁寧に解説している。資料として著者の手による「完成稿」と、それを元に叩き上げられた「録音台本」が添付されており、「シナリオライターとは、映像の設計図を作る」というその仕事ぶりを、実際の作品を通して知ることができるようになっていることも、すばらしいと思う。

 それだけでなく、プロとして仕事を続けていくためのスケジュール管理や、共同作業者としてどうコミュニケーションをとるか、といった、ほかではなかなな聞けないようなテーマも取り扱われており、著者が「アニメに求められているのは普遍性」と書かれているのと同様に、本書もまた、オリジナル作品を共同で作るにあたって普遍的に求められているものが、しっかりと落とし込まれているところが貴重であると感じた。

 私自身が本書を手に取ったのは、シナリオライターを目指すためではなく、「機動戦士ガンダム」が名作となり得たのはなぜか、を知りたいと思ったからである。本作のテーマとは少しずれるが、作品が作り上げられていくプロセスを語る中で、「機動戦士ガンダム」が当時の10代、本来のロボットアニメのメインターゲット層からは外れた(しかし、本当に製作陣がターゲットにした)世代になぜ、受けたのか、なぜ、その心の琴線に触れる作品になっていったのか、といったことも余すことなく語られており、その意味でも貴重な一冊となっている。

 そのことについては本書をひもといてもらうこととして、星山博之氏が「エリート純血主義を乗り越える」っということをテーマの一つとして掲げていた、ということは大変興味深い発見だった。そこから生まれた名エピソードが、「太平洋、血で染めて」で描かれたカイとミハルの悲劇であり、また、少年たちが操る船、ホワイトベースがボロボロに傷つきながら超エリートであるシャア、ジオンの精鋭部隊、そしてザビ家をも倒していく、というそのエッセンスだったのだ。
 それは、富野由悠季監督が突発的に出してきた「ニュータイプ」という概念とは真っ向から対立する。しかし「機動戦士ガンダム」は、それに流されることなく、最後までそのテーマを貫き通したからこそ、名作となり得たのではないだろうか。
 Zガンダム以降の宇宙世紀モノの続編に、この最初の作品に関わった脚本家は一人も関わることはなかった。「ニュータイプ」、特殊な能力により選ばれた人々、という概念は続編の中でより大きく扱われることとなり、「エリート純血主義を乗り越える」というテーマに取ってかわることになったが、その後も第1作目の「機動戦士ガンダム」が、原点にして頂点と言われ続けるところを見ても、作品のテーマにこめられた作者の思いと普遍性とが、いかに大きく人々に訴えかけるものか、を感じざるを得ない。
 そんな意味で、「機動戦士ガンダム」という作品の原点の触れる意味でも、ぜひ手に取ってほしい一冊である。

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