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満ち足りた時間の記憶

こんにちは。『tobira.』店主のれいです。

少し前の話になるのですが、画家 清水美紅さんの個展〈満月と新月〉に行ってきました。

女の子をモチーフにした淡く柔らかな清水さんの作品は、個展に足を運ぶまでは作品が持つ“可愛らしさ”に強く引っ張られる印象がありました。

しかし、実際に作品をひとつひとつ眺めているうちに、彼女が描く世界は、ただゆるやかでやさしいだけではないことに気付かされていきます。

そこには、静かな悲しみや痛み、憂いといった感情の一粒一粒までも描かれていて、想像とは違った彼女の世界観に、気がつけばグッと心を掴まれていました。

私はそのまま彼女の世界に引っ張られ、絵の中の女の子とリンクするかのように「私」だけの物語をそっと紡ぎ始めます。

それは少女時代の淡くて柔らかな記憶。

不器用で身勝手で自意識過剰で、二度とと戻りたくない世界であると同時に、人としての在り方、大切にしたい言葉を見つけては問い続けた、かけがえのない時間でもありました。

まさに感情がぐらぐら揺れるような思春期の日々の記憶です。

キリッと頬に刺さる冬の寒気を感じながら、友人たちと学校の帰り道を歩いた日々のこと、友人に囲まれた楽しい時間にふと訪れる心細さや切なさ。

あぁ、なんて懐かしいんだろうと当時を思い出し、なんだか心がヒリヒリしました。

その時間を振り返り思い出すのは、誰かを真っ直ぐ信じるまっさらな思いとか、この子を助けたいと願い行動する強い心とか、誰かに、何かに、大切に思い思われ生きた、かけがえのない時代の記憶でした。

と同時に成長するにつれ、失っていくもの、手にしていくものたち。

信じすぎた友情とか、孤独をやり過ごすために身につけた「私らしさ」とか。

何者かになるために、夢や希望を持ち続けられたあの日々がなんだか愛おしい。

とはいえ、年を重ねてようやく「私」は「私」として生きられる気楽さを手に入れられるような気もするのです。

諦めさえも希望に変えて、生きる喜びを見出したい。

そんなことをしみじみ感じた清水さんの個展でした。

だいぶ話が逸れたけれど(笑)

購入した作品集は、スキマ時間にページを開き、そのたびに違う味わいを楽しんでいます。

朝イチ仕事を始める前、夜眠る前、気持ちを整えたい時に。

これからも手元に置いて、時間の経過とともに変わるであろう作品の捉え方、わたし自身の心の動きを楽しんでいきたいなと思っています。

最近は落ち込むことが多かったけれど、人間が持つ創造力の偉大さに随分と救われています。

生み出すこと、作り出すこと。ゼロから芽生えていくそのものに希望を感じる今日この頃。

何事も誰かの真似やテクニックを超え、その人がその人だからこそ紡ぎ出せるもの、完全さから解放された不完全さの魅力に心掴まれる日々です。

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