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とんがりハウス

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はじめての街で暮らした1年間。 私が暮らしたとんがりハウスと、そこで出会った、あたたかなひとびと。
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2015年7月の記事一覧

東京から通うフリーライター

とんがりハウスで一緒に暮らしていたもう一人に、彼女がいる。東京在住のフリーライターだ。彼女は、世の中の動きに敏感で、物事の処理能力や行動力に優れ、おそらく“ネタ”を見つける嗅覚も高い。そんなわけだから、あの町に興味を持ち、気に入るのもおかしいことではなかった。町のキーパーソンを見つけ、言葉に耳を傾けることで何かを見いだそうとしているのが彼女の好奇心旺盛な目から伝わってきた。私は、町に暮らしていなが

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あの街のこと

その街は、やっぱりちょっと稀有な街だったと思う。半径4kmの円のなかにすぽりとおさまる小さな街には、日本中から(ときには世界各地から)面白い人材が集まっていた。それは、最近流行の「移住」や「地域活性化」なんてのにぴったりはまった人たちだった。そう、「町おこし」の見本なんかになってしまうような元気のいい街だった。ギラギラした人たちや、今風のカタカナ書きの成功者(や予備軍)たちが視察や、なにかを実践す

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民宿に嫁いだテキスタイルデザイナー

どちらかというと奥手の人が多い(土地柄なのか)あの街で、彼女はひときわ明るく、社交的だった。はじめて会ったときも、とびきりの笑顔で、私を受け入れてくれた。それは性格だけではない。彼女はいつも、明るい色のある素敵な生地の洋服を着こなしていて、髪型やメイクもキラキラとしていて、私はすぐに、彼女のことを好きになった。

彼女は、東京の美術大学を卒業したあと、夫の実家であるあの街で、実家の民宿を手伝うため

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新規就農のために移住してきた男

その男は昔、大手自動車メーカーに勤めていた。若い人たちを指導する長が付く役職まで昇進していたという。けれど彼は、三十代の半ばで、農業の世界へ飛び込んだ。結婚や約束した彼女を地元において、単身、あの街へ移住した。自分より年下の先輩に弟子入りをし、ゼロから農業を学んだ。

彼は、テンガロンハットがよく似合った。使い込まれたテンガロンハットをかぶり、畑にでる彼は、真っ黒に日焼けして、爪には泥がつまって、

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スン!とまっすぐ伸びた人

はじめてこの人を紹介されたときのことを、私は覚えていない。けれど、会ったときに、「あ、この街にきてよかった」と小さいけれどたしかな確信をもったことは覚えている。その人はとても背が高く、ひょろり、というか、スン!としている人。建築を愛していて、建築が縁となりこの街に移り住んだ人。自慢や主張という言葉からは遠いところにいる人。いつも、自分の話より、私たちの話を聞いてくれる人だ。私たちは、ちょろちょろと

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