スン!とまっすぐ伸びた人

はじめてこの人を紹介されたときのことを、私は覚えていない。けれど、会ったときに、「あ、この街にきてよかった」と小さいけれどたしかな確信をもったことは覚えている。その人はとても背が高く、ひょろり、というか、スン!としている人。建築を愛していて、建築が縁となりこの街に移り住んだ人。自慢や主張という言葉からは遠いところにいる人。いつも、自分の話より、私たちの話を聞いてくれる人だ。私たちは、ちょろちょろと好きなことにかしましく動いていたが、その人はいつもにこやかに、どんな提案もただ「いいですね」と受け入れてくれた。彼がそのときにみせる笑顔は、決して受け身ではなく、「おもしろがって」くれているまるで少年のようなものだった。

彼は、その街に、自分の家を建てた。自分で設計をしたおうち。古く昔からある納屋のようなカタチで、高いところに大きなまるい窓がついていた。家にはいると、高い天井と、広めの土間、そしてちょっとしたリビングルームや、家族憩いのスペース。それは、合理性や利便性といった言葉とはかけ離れた、彼らしい自然体の間取りだった。これから産まれてくる家族と(ちょうどその時、奥様のおなかには赤ちゃんがいたのです)の新しい生活をわくわくする想いで想像した。

学生のときにあの街と出会った彼は、仕事、結婚、そして土地を持ち、家を持つ場所として、あの街を選んだ。ふらりとやってきて、また、ふらりと去ってしまう自分。はじめて会ったときに感じた印象はずっと変わることなかった。きっと彼は、どこの街にもある時計台のように、スン!とした佇まいで、あの街にいつづけ、多くの人を安心させていくのだと思う。今でも私は、遠く離れたこの街から彼を思い出すと、安堵の気持ちに包まれることが出来る。

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