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天体の回転について|感想・レビュー ★4.0|小林泰三氏らしい短編ハードSF

小林泰三氏のSF短編小説『天体の回転について』を読了したので、かんたんに感想・レビューです。

短くまとめると

表紙で躊躇してしまう(人も多いと思う)が、氏の持ち味がしっかり出たハードSF短編小説。小林泰三氏の作品が好きなら買って損はないはず(エロ・グロ要素も少なめ)

同じく氏のSF短編小説である『海を見る人』よりも”ライト”な仕上がりなので、SFに慣れていない人はこちらのほうが読みやすいかも?

私の小説に最も影響を与えている作家

最初に断っておきますと、私は小林泰三こばやしやすみ氏のファンです。氏の小説は全読とまではいかないにしても、9割は読破できていると思います。

私は小説を書き始めた頃、”最後の数行で落とす”というスタイルにわりと拘っていましたが、それは氏のある短編作品に強く影響されていたりします(今邑彩氏の『よもつひらさか』の影響も強いです)。その作品の最後の一行の落とし方には本当に震えました。

また、氏の作品は緻密な論理を重ねた印象があり、また哲学的あるいは寓意的な要素もあります。このあたりも私の小説に強く影響を与えていると思います。

氏は一昨年にがんにより死去されてしまいました。これからも面白い作品が書ける実力のある作家だと思っていたので、非常に残念なことです。

概要

本作は8つの短編からなるハードSF(*1)小説です。

  • 天体の回転について

  • 灰色の車輪

  • あの日

  • 性交体験者

  • 銀の船

  • 三○○万

  • 盗まれた昨日

  • 時空争奪

”ハードSF”というと読みづらい印象があるかもしれませんが、本作においてはフレーバーに近い感じで、複雑な説明があるわけではありません。なので、興味がある人はハードSFとしても読めるというレベルかと思います(氏の『海を見る人』は本作に比べるともっとハードです)。


*1 【ハードSF】”細けえことはいいんだ!ワープできるんだよ!”とは真逆のSF。

「ハードSF」とされる作品群においては、科学技術、とくに既知の天文学物理学化学数学工学技術などの正確で論理的で厳密な描写と、これらの科学知識に裏付けられた理論上可能なアイデアが中心となっている、とされる。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%83%89SF

感想

かなり面白かったです。

『海を見る人』とはまた少し違ったテイストのSF短編小説として仕上がっていて、個人的にはもっと早く読んでおけばよかったと思います。

どの作品も小林泰三氏らしい趣向というかアイディアあるいはテイストみたいなものが散りばめられていて、これぞ氏の短編小説だと思いました。緻密な理論と哲学……そういった言葉が合うでしょうか。

一方で「え、そこで終わるの?」という作品もありました。短編らしいキレイなオチみたいなものを期待して読むと、ちょっと違うという印象を受ける人もいるかもしれません。

氏の作品といえばエロ・グロがつきものですが、本作においては『性交体験者』くらいのもので、そういったエロ・グロ描写が苦手な方でも読みやすいタイプかと思いました。

ちなみに、誤解させる表紙に関わりがあるのは表題作のみで、『天体の回転について』は多少アニメっぽい(というか”萌え”な)描写もありますが、それ以外は基本的に氏の平常運転です(逆に本作から入った人は氏の作風を誤解してしまうかも知れません)。

どの作品もそれぞれの色があって面白かったですが、個人的には『性交体験者』が一番気に入りました(エロ・グロ描写は好きではないのですが)。

普段の我々が持っている常識的という価値観に対して、別の視点から思いきり切込みを入れてくる……こういう哲学的・寓意的な作品こそ小林泰三氏の真骨頂だと改めて思いました。

あとがき

やはり表紙で損をしているよなぁ、と思います……これは明らかに出版社の判断ミスでしょう。

ところで、小林泰三氏の小説を面白いと勧めたい時、どの作品を紹介するべきなのか未だによく分かりません。


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