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【学習とは一体なにか③】ヴィゴツキーの社会構成主義について

□ はじめに

 私は教師として働く前、教育とは「発達を促すすべての営み」であると学び、この「発達」を「社会文化に貢献できる潜在的能力」と解釈するヴィゴツキーの学習理論を学びました。この理論に出会ったのは大学時代で、その当時、知識伝達型の授業に疑問を持ち、学習者中心の授業を模索していました。そのため「学習とは単なる知識伝達のみならず、学習者の事前知識から事後知識への質的な変化である。そして、仲間の援助を受け入れることによって発達が生じる」というこの理論を初めて知ったときは、ものすごく感銘を受けたのを覚えています。

□ 学習理論

 個人の学習を成立させる学習論として、大きく3つの考え方がこれまでに提示されてきました。いずれも「発達」の捉え方の違いが理論を規定していると考えられ、「知識」の定義によって変遷をしてきました。

① 行動主義

この学習理論は、知識を「普遍的に真であるもの」と定義しています。簡単に言うと、知識は変わることはなく絶対的なものである、ということです。そのため、「知識の量」を増やすことが「発達」であると捉えています。

② 構成主義

この学習理論では、知識を「一人ひとりが自ら構成するもの」と定義しています。そのため、物事の理解の仕方における「質的変化」を「発達」と捉えています。

③ 社会構成主義

 構成主義の知識感を大事にしながらも、知識を「社会的な営みによって構成するもの」と定義したのが「社会構成主義」です。構成主義と同様、物事の理解の仕方の「質的変化」を「発達」と捉えています。この理論では、子どもはひとりで学ぶだけでなく、学校の先生や教材など様々な媒介を通じて学習対象を学び、その延長で「発達」が生じると考えています。

社会構成主義の創設者として心理学者のヴィゴツキーが知られています。ヴィゴツキーは、学習者が一人では解決できなような学習対象の理解や問題解決、創造的課題に取り組むときに、仲介者(先生、親、先輩、友人、本、コンピュータなど)が支援してくれることにより、発達が生じると考えました。 ピアジェの学習理論と本質的に違うところは、学習者が自ら学習対象を学ぶのではなく、「協調」による「社会的実践」によって知識を獲得するという点にあります。

 私は大学時代にこの学習理論を学びましたが、その当時とても感銘を受けたのを覚えています。この理論を私に教えて頂いた先生は、ヴィゴツキーの理論を以下のように解釈しています。

他者からの学びの支援(2015,植野)

「初心者は、熟練者に学習対象の理解を支援してもらうことにより、単なる知識のみならず、理解の仕方や、対象の見方、学習動機、対象の面白さ、価値観、倫理、情熱など、情意面においても熟練者を観察・模倣することで学習できる」と教わりました。重要なのは、熟練者である教師自身も学習対象に対して深い理解や、その対象の面白さなど説明できるように努める必要があるということです。学習者は熟練者の理解の仕方そのものを学んでいくので、熟練者の学習対象への見方そのものが学習者に影響することになります。
詳しくは、こちらの論文をご覧ください。
他者からの学びの支援(2015, 植野)

□ ヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPD)

 ヴィゴツキーは日常的概念と科学的概念の発達に関するピアジェの理論を批判し、他者の支援を受け入れることが、日常的概念と科学的概念の接続を可能にするための本質としました。

この教師や仲間の援助を受け入れることにより到達できる能力の領域は「最近接発達領域(ZPD)」と呼び、その能力の差異が学習能力を規定しているという新たな学力観を作り上げました。

図1

□ コリンズの認知的徒弟制

 ヴィゴツキーの理論は、その後「メタ認知 」や「経験による学習」を重視 したコリンズの認知的徒弟制に引き継がれていきました。コリンズは学習したい知識の構造が複雑な場合、「徒弟制」による学習が有効であると考えました。この認知的徒弟制は、レイブとヴェンガーの「実践共同体」への「正統的周辺参加」の中心的理論でもあります。

 コリンズは、共同体において知識や共通の経験に関するストーリーを共有することを目的にした、学習間の相互作用を4つの段階としてモデル化しています。

このモデルで重要なのは、③のスキャフォールディングになります。スキャフォールディングは、ヴィゴツキーの最近接発達領域を基本的理論としています。コリンズは、スキャフォールディングに不可欠な要素として、以下の要素を挙げています。

・学習者の現状の理解度や能力、または課題の難易度を正確に診断すること

・診断した能力や課題の難しさに応じて適切な支援が行われること

□ レイブとウェンガーの実践共同体

認知的徒弟制を実現するための有用な学習環境として、レイブとヴェンガーは、「実践共同体」を提唱しました。

レイブとヴェンガーは、どんな組織にも必ず「人々がともに学ぶための単位」が存在することを発見し、「共通の専門スキルや、ある事業への熱意や献身のよって非公式に結びついた人々の集まり」を「実践共同体」と名付けました。

さらに、レイブとヴェンガーは、「学習」を個人が知識や技能を獲得することではなく、実践共同体の参加を通じて得られる役割の変化や過程と考えていました。この共同体への参加の仕方を「正統的周辺参加」と名付け、正統的周辺参加において、新参者から古参者へと変化していく過程こそが学習だと提唱しています。

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