ズボンのポッケにサイフはマズイ

「江藤さんって、サイフっていつも、ケツのポケットに入れてるんですか?」

運転しながら、オンアード桜の町田さんが言った。

もともとはスーツのメーカーだったオンアード桜という会社は、農協と提携している。

初期に比べ、宝石の取扱いが多くなり、現在は指輪やネックレス、ピアスなどのジュエリーのブランドが有名になっている。

宝石の営業マン、町田さんと、今日は2人で訪問営業をしている。

町田さんの営業車に乗せてもらい、僕は助手席で道案内。

宝石のお話を聞いていただけそうなお客さんの家に向かっていた。

町田さんはスーツの営業もしていたらしく、そう前置きした上で

「すみません、私、気付いたら言いたくなっちゃうんですよ」

と、僕のスーツのズボンの、右後ろが薄くなっている事に気付いていたらしく、話してくれた。

車や事務イスに座るたびに、右後ろポケットに入れたサイフの角が擦れて、徐々に徐々に布が薄くなってきていた。

やはり、専門の人から見たら、とっても目立ったらしい。

「たぶん、女性の方も結構気付くと思いますよ」

そう、町田さんに言われてドキッとした。

それはみっともない。

サイフはカバンにしまう事にしよう。

ズボンは冬のボーナスの時と考えていたけど、今度の土曜にクレジットカードで買いに行こう。

昼食の時、スマホのスケジュールに保存した。



昔、

半世紀も昔の頃は、

農協の理事や監事に初めてなった組合員さんは、農業をひとすじで来た人がほとんど。

スーツやジャケットを持っていない人も多かった。

今みたいに

「型抜き」と組合員さんが呼ぶ量産型スーツの販売店が、あちこちにある時代じゃない。

その頃は、スーツのメーカーさんと共に新しく役員になった人の家に伺い、スーツの新調をして回った時代もあったそうだ。

その頃からオンアード桜さんとの取引が続いているらしい。

スーツと違い、宝石の場合は必ず需要がある訳じゃない。

まずは話を聞いていただけるかどうかだ。

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