声を高く?低く?どっちが聞こえるのか

耳が遠い人は元気で長生きする。

本当かどうか、それはわからない。けれど、元気で長生きだけど、耳が遠いお客さんは多い。

浅川久栄さんは80歳だけど、一人で暮らしている。

チャイムを鳴らす。

ピーンッ ポーンッ


・・・

・・・・・

・・・・・・・


やっぱり気付かないか。

念のため、もう一度チャイムを押す。

・・・・・・・だめだ、反応が無い。

庭の窓に目をうつす。

カーテンが開いている。

いるな。

庭にまわる。

飛び石を歩き、窓の前に来た。

久栄さんは、部屋のど真ん中のソファに座って、テレビを見ていた。

外にいる自分に気付いていない。

右肩をあげ、大きく腕を振る。

笑顔で思いっきり振る。

気付かない。

よく見ると、テレビからイヤホンを伸ばして耳に付けている。

チャイムも聞こえないわけだ・・・・

しょうがない、ちょっと失礼だけど。

そう思いながら窓に近づき、こぶしで軽く

コンコンコンッ

っと窓を叩いた。

窓の振動からなのか、窓ギリギリまで近づいたから視界に入ったのか、どちらにせよ、これでやっと気付いてくれた。

久栄さんはこちらを向き、

「お、おお!おぉ、ちょ、ちょっとまってくれ」

おもむろにイヤホンを外すと、ソファの手すりに両手を掛け、

「いよっぉ!っとっぉ!」

と意気込みながら腰を上げ、玄関側に歩き出した。

それを見て、玄関に戻る。

ガチャリ

鍵が開いた。

ゆっくりとドアを引く。

(急にドアを引くと、まだ中から取っ手を握ったままの状態で家の人がいる可能性があって、転倒させてしまったりと、いろいろと危険だからだ)

大丈夫、久栄さんは裸足のまま、玄関の土間に降りてカギを開けてくれていた。

「ありがとうございます。今日は貯金で伺いました」

「農協さんだっけ?」

「はい。農協の江藤です」

「ぁあ!? なんだって?」

「のぉー!きょぉー!のっ!!えとーです!」

「ああ、はいはい。貯金かな?」


次からはもっと聞きやすい話し方を工夫しよう・・・

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