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#23-S ヒトはぼんやりする、そしてぼんやりは不幸せにつながる

紹介論文
Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Science (New York, N.Y.), 330(6006), 932.

私の研究テーマのひとつは、マインドワンダリングという心理現象です。以下MWとします。MWは「ぼんやり」のことです。読書中に他のことをぼんやりと考えてしまう、他人と話をしているときにぼんやりと他のことを考えてしまって、聞いてる?と言われる、などなど、我々の日常はぼんやりに満ちています。

心理学の世界では「注意」を研究対象とする分野は古くからありました。課題にどのくらい注意を向け続けることができるか、ある課題をしながら、他のことにどの程度注意を向けれるか、などが研究されてきていて、面白い発見が沢山なされています。この「ぼんやり」は注意の失敗とも取れる現象ですので、少し前までは積極的に研究されるようなものではありませんでした。

しかし、ぼんやりは日常生活にあふれていて、なんとそのぼんやりが不幸せに繋がっているという報告が2010年になされました。今回はこの研究をご紹介。

この研究が行われた2010年は、すでに1人1台スマホを持っている時代になっていました(日本での流行は欧米にかなり遅れをとってます)。そこで、アプリを使って日常生活中のランダムなタイミングに何を考えていたかを、そのときに何をしていたか・そのときの幸福度とセットで調査しました。実験用アプリから急に通知が来るので、それに回答するというものですね。スマホアプリなので大量にデータを取得することが可能です。それを解析しました。

その結果の図を掲載します。

結果の図。横軸は幸福度で、65あたりの破線が全体の平均。破線より右側にあれば平均より幸せということになる。黒丸の大きさは全体にしめる割合を表していて、上に個々のイベント、下4つがそれらをまとめたものになっている。下4つに着目すると、最も幸せなのはMWをしていないときということになっていて、MWはその内容がニュートラルなもの(つまりポジティブでもネガティブでもないもの)であっても幸福度は平均以下になっていたという。個々のイベントで面白いのはmaking love、すなわち性行為中でも回答をしてくれた人が一定数いたということ。

結果をみると、まずMWの頻度は全回答中の約5割ほどあります。日常生活のランダムなタイミングで測定しているので、つまり我々は覚醒して(起きて)いるときの約半分は、仕事や家事など今やっていることとは別のことを考えているということです。
そして、MWをするとそれが楽しい内容でない限りは不幸せな気分が共起していたということになっています。この結果をもって、著者らはぼんやりと心がさまようことは、不幸せなんだと主張しています。

この研究はMWが認知科学・心理学の研究対象となるきっかけとなった重要なものです。ただ、その内容には反論もたくさんあります。まぁよく考えたらわかるけど、測定のための通知が来たことでUnhappyになった可能性とか、unpleasant(不快な)MWのときの幸福度がかなり低いだけで、neutralはそんなに不幸じゃないだろう、とか。たしかにそうですね。

まとめ
ヒトは生活のうち約半分はぼんやりしている。少なくとも、その内容がネガティブなものだと、不幸せになる。


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