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『新海誠 絵コンテ集』と、物語の魂について。

こんにちは、小清水志織です。

突然ですが、みなさんは絵コンテがお好きでしょうか。

「本が好きです」という方でしたら、幸いにも何名かお友達がいます。
しかし「絵コンテを読むのが好きです」という方には、未だ実生活でお会いすることができていません。

芸術系の学校出身の友達がいれば、もしかすると会えたかもしれません。監督の巻末インタビューにも書いてありましたが、絵コンテ集はどちらかと言えば制作者サイドの方、ものづくりに興味のある方が手に取るものなのかなと思います。

読書記録アプリ「読書メーター」で絵コンテを登録した方の人数を確認してみたところ、やはり100に満たない場合がほとんどでした。

かくいう私も、最近になって絵コンテの面白さを知ったばかり、しかも新海誠監督の作品の絵コンテ集だけをやっと通読できただけなので、プロっぽい突っ込んだことは何一つ申し上げられません。

それでも、読んでみて感じたことが大きく二つありました。

第一に絵コンテは、物凄くおもしろい「読み物」だということ。

第二に「物語のキャラクターに魂が宿る」プロセスを想像できることです。

ページをめくれば、そこには場面ごとのカット、ト書き、台詞、SE(効果音)、制作過程のメモなどが詳細に書き込まれています。

映画のストーリーを追体験する気持ちでページを繰っていくと、監督が一枚一枚の絵に心をこめて描いていることが伝わってきます。

各カットに対して「(人物が)駆け出す!」とか「色っぽくお願いします」「妖しくも美しい」など、機械的な指示というよりも監督の作品に対する感情がストレートに表現されていて、とても表情豊かな世界が広がっていました。

アニメーターの方に向けて「書き込みが多いですが…」とか「ここはどうしましょう? 要検討」といった、細かい気配りや提案が垣間見えるのも興味深いところです。

もちろん、絵コンテはアニメ制作のための指示書なので一般書籍とは性格が異なりますが、十分に「読み物」として良い刺激を受けられました。

そして何より、私が絵コンテを好きになれた理由が「物語のキャラクターに魂が宿る」プロセスを想像できることでした。

これは私自身の関心事でもあって、創作と向き合うときの大きなテーマといえるものです。どうすれば単なる文字だけの設定から血の通った「人」へと飛翔できるのか、何をすれば物語のキャラクターに「魂」が宿るのか、空想のキャラクターがまるで実在しているように魅せるにはどうすればいいのか……。そんなことを考えてきました。

繊細な芝居、大胆なアクションシーン、台詞の言葉遣い、カットの繋ぎ方、カットの尺、音楽との整合性……。様々な要素はあると思いますが、絵コンテ全体をとおして痛感したのは「絵コンテは絵で物語るものなんだ」ということでした。

何を当たり前な、と思われたかもしれませんが、絵コンテは映像の設計図、作者の構想がはじめてカタチになる大切な過程です。

絵と絵を結びあわせることで物語が生まれ、そこにはキャラクターの動作や言葉、感情が乗っていく。物語の「物」とは、自分がとても大切にしているもの、容易には言葉にできないもの、尊いもの、美しいもの……。つまり「物」とは「魂」のことではないか、「物語る」とは「魂を語る」ことではないかと思い至りました。

新海作品で「魂を語る」といえば、やはり深みのあるモノローグではないでしょうか。

でも、確かなことが、ひとつだけある。わたしたちは、会えばぜったい、すぐに分かる。わたしに入ってたのは、君なんだって。君に入ってたのは、わたしなんだって。

『君の名は。 新海誠 絵コンテ集 2』pp.463〜465

『君の名は。』の後半、ヒロイン三葉のモノローグの部分です。三葉のピュアな恋心が胸に突き刺さるシーンですが、なんとこの台詞の間は、三葉の表情がまったく描き込まれていないのです。都会をさまよい歩く彼女の足元だけが、様々なアングルで表現されるばかりなのです。切実な想いを吐露する重要な場面で、あえてヒロインの表情を描かない監督の力量、表現の奥深さに強い衝撃を受けました。

とにかく、キャラクターの言葉や表情が豊かなんですよね。そして、人や物、動植物、景色のいろいろを組みあわせて、ひとつの物語を創っている。

「絵で魂を語る」って、凄すぎます。

好みはあるでしょうが、私はやっぱり新海作品が好きです。もっと早く知っていたら良かったと後悔すらしています。

それにしても、これを読んで改めて、三葉ちゃん好きだなあ……と(笑)

すみません、ついファンの本音が漏れてしまいました(汗)。早めに話を切り上げないと、延々と語ってしまいそうです。
今日も最後までご覧くださり、ありがとうございます。

あなたにも、良い本との出逢いがありますように。

それでは、またお会いしましょう。

小清水志織

鑑賞作品
新海誠『新海誠 絵コンテ集 1〜6』(株式会社KADOKAWA)

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