マガジンのカバー画像

そして誰も来なくなった

22
有名なミステリの設定をお借りしつつ…。
運営しているクリエイター

#過去

そして誰も来なくなった File 13

そして誰も来なくなった File 13

夢を見ていたのだろうか。

使い古した敷布団の上で目を覚ますと、しみで汚れた天井が目に入った。全身を脱力させて生暖かい息を吐く。大学進学を機に住み続けている、細田不動産のアパートの一室。光線銃のような夏の日差しが西の窓から燦燦と降り注いでいる。スズメが飛んできてチュッチュと鳴いて空気を緩ませた。窓の隙間から強い風が吹き込んで、白レースのカーテンをゆらりと躍らせる。

カレンダーを見れば、20××年

もっとみる
そして誰も来なくなった File 11

そして誰も来なくなった File 11

『飛鳥』

放課後に僕の背中を呼ぶ声がする。懐かしいトーン。ちょっとだけ尖った口調。そして柔らかな香り。リュックサックを持ち直して振り返ると、寝癖のついた髪の毛が目元を覆って、彼女の姿を隠す。

『美里。どうした』

彼女は周囲の視線を気にすることなく、遠慮なく僕のもとへ走ってくる。異性に近づいてくるなんて、初めて喋ったときには信じられないほど積極的な行動だ。もしかして、僕の力で彼女を変えられたの

もっとみる
そして誰も来なくなった File 10

そして誰も来なくなった File 10

大学に入ってから体育の授業を取らなくなり、運動不足だった足がすでに悲鳴を上げている。豆電球が列になって続く青白い通路を、マーガレットの背中を追いかけて歩く。羨ましいほどの長い足をしているので、歩幅も大きく、小柄な美里はついていくのに必死だった。

「どれだけ歩くんですか?」

とうとう根を上げてぺたんと冷たい地べたに座り込む。小学校の遠足で通った狭いトンネルの地面と似ている、無機質な肌触りだった。

もっとみる
そして誰も来なくなった File 5

そして誰も来なくなった File 5

ベージュ色のカーペットが敷かれた細長い廊下を、マーガレットさんの後ろにくっつくかたちで歩いている。彼女は背中を大胆に広げたドレスを着ているので、その肌を見ないように前を進むのになかなか苦心した。

「飛鳥くん。あなた、女性慣れしていないでしょ」

僕の内心をえぐるような質問を投げかけるマーガレットさんに、僕は閉口した。渡したいものがあると言ってきたから、わざわざ彼女の部屋までついてきているのである

もっとみる
そして誰も来なくなった File3

そして誰も来なくなった File3

「非常用電源だ! 電源はどこだ!」

ダイニングが暗闇に包まれて一同がパニックに陥るなか、今藤はじめの怒声が大きく響き渡った。目が暗さに慣れるまでに時間がかかるので、あちこちで人がテーブルにぶつかる音や、「ごめんなさい」と謝る声、駆け足の靴音、せわしないスーツの衣擦れが聞こえてくる。僕は美里の安否を確かめるべく、彼女が体育座りをしていた辺りに手を伸ばした。しかし、暗闇の中で遠くに行っていないはずの

もっとみる
そして誰も来なくなった File 2

そして誰も来なくなった File 2

ダイニングのどこから響いているのであろうか。周囲に視線を巡らせてもスピーカーらしきものは見当たらない。天井の四隅を眺めてみたけれど、やはり音響装置の類は設置されていないようだ。

孤島に集められた、僕を含めて十名の招待客は、突然流れ出した「声」をじっと聴いている。「声」は壊れたカセットテープのような、ノイズが混じった途切れ途切れの言葉を乗せて、淡々とした調子でダイニングに押し広がっていく。

『浜

もっとみる