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はじまりのセツナという曲

はじめに

このまま時間が止まったらいいのに、この瞬間がずっと続いたらいいのに。

そう思ったことはありますか?私は、自分にとって最高のアニメと出会ったときに、そんな気持ちになるようです。

2022年1月から放送されていた冬アニメ、『明日あけびちゃんのセーラー服』という作品が、それを私に教えてくれました。

まずは、このアニメのオープニングテーマである、『はじまりのセツナ』という曲の歌詞をご覧ください。歌詞の下にYoutubeへのリンクがあるので、そちらから視聴していいただいても構いません。


はじまりのセツナ

作詞・作曲・編曲 杉山勝彦

時間が止まれば 良いのになって思うよ
まだ何も知らない同士なのに
どうしてなの? もう君のことが好き
はじまりのセツナ

見慣れてない景色がキラリ光った
君が名前を呼んでくれたからだよ
クラスメートじゃなく 友達になりたい
君に思っていたの 密かにずっと

もっと知りたい もっと知って欲しい
話さえぎるチャイム 夕日に染まる君
“bye bye”って言いたくない

時間が止まれば 良いのになって思うよ
まだ何も知らない同士なのに
どうしてなの? もう君のことが好き
はじまりのセツナ
大きく手を振る 君がとても綺麗で
振り返すことも忘れそうだよ
どうしてなの? もう君のことが好き
きらめきのセツナ

相槌を打ってる君の瞳は
胸のロック開ける パスコードみたい
話したかったことが 寂しかったことが
次々に溢れて いっぱいになる

息を切らして 駆けあがる坂道
心を追い越して 身体がはしゃいでる
ドキドキが止まらない

大人になりたい 背伸びする度 揺れる
今がほら 素敵すぎるからだよ
どうしてなの? 嬉しい気持ちなのに
涙が出ちゃうな

高台からの風景がオレンジの宝石箱みたい
それでもお腹は空いてきて 可笑しくてひとりで吹き出した
Ah もう君に話したくなったよ

大人になりたい 背伸びする度 揺れる
今がほら 素敵すぎるからだよ
どうしてなの? 嬉しい気持ちなのに
涙が出ちゃうな
時間が止まれば 良いのになって思うよ
まだ何も知らない同士なのに
どうしてなの? もう君のことが好き
はじまりのセツナ
ずっと続いて セツナ





明日ちゃんのセーラー服という作品

Youtubeで動画を試聴していただいた方はなんとなく分かったかと思いますが、この作品は私立の女子中学校に通う少女たちの青春を描いた、青春群像劇です。

私立蝋梅学園のセーラー服に憧れて入学した主人公明日小路あけびこみちさんとクラスメートの関わりを、美しい色彩で描いています。

明日ちゃんのセーラー服公式サイト 3話振り返りカットギャラリーより 
右側が主人公「明日小路」左側はクラスメイト

私がこの作品を視聴しようと思ったきっかけは、登場人物の一人であり、第二ヒロインのような立ち位置の木崎江利花きざきえりか役を、推しの声優雨宮天あまみやそらさんが演じているということを知ったからです。

冬アニメとして明日ちゃんのセーラー服という作品が放送していること自体は知っていたのですが、雨宮さんが出演していることは知りませんでした。

また、はじめに明日ちゃんのセーラー服というタイトルとキービジュアルを見たときに、勝手に(どうせ百合アニメだろう、百合が前面に出てくるアニメはあまり好きじゃないしな)と思って、試聴しませんでした。当時は大学院生であり修士論文の時期で、忙しかったというのも理由の一つです。

百合とは狭義には女の子同士の恋愛、広義な意味で女の子同士の友情を指す言葉

Wikipedia より
明日ちゃんのセーラー服キービジュアル 公式サイトより

しかし私は、この作品を試聴してすぐ、どうしようもない先入観で見ることを忌避していたことを後悔しました。

上の2つの画像とYoutubeのリリックムービからもわかるように、まず作画がかなり良いです。良質なアニメの条件として、作画が良く安定しているということが挙げられます。

2020年に記録的な大ヒットを叩き出した鬼滅の刃や、目下話題沸騰中のSPY×FAMILY、戦争と手紙を題材とし他の作品とは一線を画す色使いで視聴者の涙を枯らしてくるヴァイオレット・エヴァーガーデンなど、これらのアニメは全て作画が良く、尚且つ安定しています。

左から鬼滅の刃、SPY×FAMILY、ヴァイオレット・エヴァーガーデンのキービジュアル
それぞれの公式サイトより

明日ちゃんのセーラー服もこれらの作品と同様に、制作会社であるCloverWorksは素晴らしい作画で明日ちゃんのセーラー服というアニメを世に送り出してくれました。


明日ちゃんのセーラー服の感想

ここからは、明日ちゃんのセーラー服という神アニメを見た私の感想を語っていこうと思います。

明日ちゃんについて

まずこの作品の感想を語るにあたって、明日ちゃんについて知っておかなければなりません。

冒頭にも少し書きましたが、明日ちゃんはセーラー服に憧れて、私立蝋梅学園という中学校に入学します。明日ちゃんが住んでいる地域はかなり田舎で、明日ちゃんの小学校は学年に明日ちゃんしか児童がおらず、中学生活を友達と一緒に過ごせることを楽しみにしていました。

明日ちゃんのお母さんは私立蝋梅学園のOGであり、服飾職人でもあります。そのため、明日ちゃんが着用するセーラー服は、お母さんの手作りです。

明日ちゃんは天真爛漫な女の子で、アイドルの福本幹に憧れています。自然とともに暮らしてきたため身体能力が高く、福本幹のダンスを完コピできる程度には運動神経が良いです。明日ちゃんがセーラー服に憧れるようになったのは、福本幹のCMがきっかけでした。
また、物語を動かしていく上では必須な能力でもあるため、明日ちゃんは何にでも好奇心旺盛で、コミュニケーション力も抜群です。

明日ちゃんはお母さんお手製のセーラー服を着て、嬉々として入学式に望みます。しかし、実は蝋梅学園の制服はセーラー服からブレザーに変わってしまっており、蝋梅学園全体でセーラー服を着ているのは明日ちゃんだけだったのです。これに関しては学園の理事長がセーラー服の着用を認めたため、明日ちゃんは蝋梅学園でただ一人セーラー服を着て、学園生活を過ごしていくことになります。

蝋梅学園1年3組と明日ちゃん

明日ちゃんは蝋梅学園の1年3組にクラス分けされ、クラスメイトとの生活がスタートしていきます。

ここまで散々蝋梅学園、蝋梅学園と連呼してきましたが、何言ってんだこいつと思われたでしょうか。私も初めて蝋梅学園という学園名を見たときは驚いて狼狽してしまいました。(蝋梅学園て…誰が狼狽すんねん)そう思いました。てっきり明日ちゃんに振り回されるクラスメイトが狼狽するから狼狽学園なのかなと思いました。その意味も多少はあるかもしれませんが、実際に狼狽させられるのは私たち視聴者でした。

また、蝋梅というのは中国原産の梅らしく、冬に花が咲くらしいです。冬の花の名を冠した学園で生活する少女たちの青春アニメを冬アニメとして放送する……なんて粋な計らいでしょうか!!(偶然かもしれませんが)

蝋梅の木に関する説明は下のサイトに任せるとして、この花の花言葉だけを述べておきましょう。「慈愛」だそうです。慈愛……慈愛て……最後まで試聴した上でこれを知ってしまうと、もう感情がぐちゃぐちゃになってしまいます。誰の誰に対する慈愛なんでしょうか。私たち視聴者の明日ちゃんに対する慈愛でしょうか。明日ちゃんのクラスメイトに対する慈愛でしょうか。それともクラスメイトの明日ちゃんに対する慈愛でしょうか!!!
私はこの気持ちを表現する語彙力を持ち合わせておりません。申し訳ありません。


さて、1年3組のメンバーは全員で16人おり、いわゆるモブキャラは存在しません。全員が全員登場人物です。全てのキャラに名前と設定が付けられており、1話ごとにおよそ一人の割合で明日ちゃんと絡んでいきます。半分以上のキャラクターの名前に動物の名前が入っているため、割と覚えやすいです。

キャラクター一覧 公式サイトより

CloverWorksの表現が素晴らしいので、15人のクラスメイトも明日ちゃんに負けず劣らず魅力的です。第一話が始まった時点では私たち視聴者も明日ちゃんと同じく、15人全員が初めましてです。人数も多いし、覚えるのは至難です。しかし、話が進むにつれて明日ちゃんはそれぞれのクラスメイトと仲良くなっていきます。12話を見終える頃には明日ちゃんは全員と友達になっていて、私たちも顔と名前が一致するようになります。この少しずつクラスメイトの個性が判明していくというのは、キャラクターを魅せるという点で素晴らしい手法だったと思います。

クラスメイトとの絡み、クラスメイト同士の絡み

もちろんこのアニメの主人公は明日ちゃんなので、明日ちゃんがそれぞれのクラスメイトと交流し、仲良くなっていくという展開で話が進んでいきます。基本的には、天真爛漫、積極的で明るくまっすぐな明日ちゃんが、クラスメイトを引っ張っていく、何かきっかけを与えるというストーリー構成になっています。

し か し、ですね。この作品がいままでの学園ものと一線を画す点が、ここにあると思っています。なぜかというと、明日ちゃんとクラスメイトとのダイレクトなやりとりとは別に、各クラスメイト同士のやりとりが随所で描かれているんですね。

クラスメイト 戸鹿野 舞衣が、クラスメイト 蛇森 生静 と会話するシーン
公式サイト 7話振り返りカットギャラリーより

この作品は女の子同士の交流を描いた作品なので、若干の百合的表現が含まれています。百合的表現というのは、例えば明日ちゃんのスカートがなびいた際に、クラスメイトが顔をあからめて背けるであったり、女の子が女の子を押し倒したりと言った表現です。

上記の例は百合と言って差し支えないかと思いますが、私は基本的に女の子同士の強い友情や、お互いに分かり合っているように見える表現も広義で百合として受け止めています。少年漫画でよくあるような、お互いに背中を預けると言った表現が、女の子同士になった場合を想像するとわかりやすいかと思います。

これが百合です。美しいですね。
公式サイト 6話振り返りカットギャラリーより

なんのために百合の認識について説明したかというと、明日ちゃんのセーラー服では、この種の表現が無数に出てくるからです。

えっ、そことそこ仲良いの?とか、あの二人なんかいつも一緒にいるな?とか、ちょっともうその表現はそういうことでいいんですかね?みたいに脳がバグってしまう描写がたくさんあります。

このように、日常にほんの少し小さなピースを撒いておくことで、受け手である視聴者はそこからさらに空白を埋める想像がしやすくなり、キャラクターたちに対する解像度が上がっていきます。これらの表現を通して、私たち視聴者も蝋梅学園1年3組のみんなと友達になっていくことができるようになっています。

もちろん尺の都合もあり全てのクラスメイトとの物語が紡がれるわけではありません。メインとなる話がなかったクラスメイトは、作品のスパイスとして要所要所で登場し、明日ちゃんのセーラー服という作品を引き立ててくれます。いうなればマスコット的な可愛さで、キャラが立っています。

クラスメイト 神黙 根子 可愛い。
公式サイト 4話振り返りカットギャラリーより

こうして蝋梅学園1年3組のことを理解できた上で迎える最終回は、最終回として完璧で、文句なしの100点満点でした。ぜひ試聴していただきたいです。

女の子を表現するということ

ここまで明日ちゃんについて、クラスメイトについて、キャラクター同士の百合的な絡みについて書いてきましたが、最後に本作の女の子たちを魅力的に描く表現について述べようと思います。

この作品について軽く調べると、面白い、癒されると言った感想のほかに、『変態』という評価をちらほらと見かけます。これは、良い意味でも、悪い意味でも使われていると感じます。

まず、良い意味で使われている場合についてです。この場合、アニメ制作スタッフの『変態的』なまでの表現の作り込みにあります。インタビューで原作者の博先生が仰っているように(※1)、また、タイトルが明日ちゃんのセーラー服、と服をテーマにしている点からも、本作が『セーラー服』または広義には『明日ちゃんが着る服』に焦点を当てて制作されているように感じます。

博:たぶん、セーラー服がというより、服を描くのが好きなんだと思います。生地によって違う質感とか、スカートのプリーツとかふくらみとか。普段なにげなく着たり見たりしている服がどんなパーツでできているかを調べて、それを絵で表現したいという欲求が強いです。

※1【インタビュー】『明日ちゃんのセーラー服』博「明日小路は最初、”空っぽ”なキャラクターだった」(https://media.comicspace.jp/archives/13281) より


この点において、アニメスタッフの表現の作り込みというのは、より「リアリスティック」な動きを追求するということが挙げられます。例えば、第一話で明日ちゃんがセーラー服を着るシーン、例えば、明日ちゃんが体操服で動き回るシーン、これらのシーンでより「リアリスティック」な洋服の動き、人間の動きが徹底的に追求されて表現されています。

明日ちゃんが初めてセーラー服を着るシーン niconico動画より

本作では、明日ちゃんの下着姿やお風呂シーン、登場人物のいわゆる「へそチラ」や「脇チラ」がごく当たり前のように出てきます。私の知っているほとんどのアニメでは、こう言ったシーンは視聴者へのご褒美的な意味をこめて、多少誇張して描かれることが普通でした。

しかし、明日ちゃんのセーラー服では、人間がこういう服を着て、こういう動きをしたら、脇の部分が見えるでしょ、飛び跳ねれば服が風に煽られて、お腹がみえるでしょ、といったように「現実」としてその表現を叩きつけてきます。

それに対して私は、(私は男性で、女性のそう言った部位は扇情的に感じますから)素晴らしい表現を通して見せつけられるその「リアリスティックな」情報にエロティシズムを感じるのです。こんな表現をすると作品を傷つけるようではばかられますが、誤解を恐れずにいうと、少女たちの日常をどこかから覗いているような、そんな気分にさえなってしまうのです。

長所と短所は表裏一体とはよく言ったもので、見る人によっては、ここまで述べたような表現を気持ち悪いと感じ、それにより、これは『変態』が見るアニメだとして、それ以上の評価を下すことはないでしょう。


他にも、これは原作準拠の表現なのだとは思いますが、アニメの動く絵とは絵のタッチ(表現)を変えた、一枚絵が随所で挿入されています。これは少女たちの日常を描く本作において、刹那の瞬間を切り取り、それを一枚絵として見せることで、この瞬間は少女たちにとって忘れられない、「最高の瞬間」であると視聴者に教えてくれているのではないかと感じます。

明日ちゃんのセーラー服第一話 制服お披露目シーン
公式サイト 1話振り返りカットギャラリーより


はじまりのセツナと蝋梅学園1年3組

ところで、冒頭のはじまりのセツナ、Youtubeでご覧になっていただけたでしょうか。リリックムービーを視聴すると、忘れていた感情が湧き上がってこないでしょうか。最後に「時間が止まればいいのになって思った」のはいつでしょうか。「今がほら素敵すぎる」と感じたのはいつでしょうか。

私は、アニメや読書、映画などの作品を視聴することが好きです。それは、自分にはなかった人生を体験することができるからだと思っています。明日小路として、蝋梅学園1年3組として忘れられない最高の青春を過ごすことができるのが、本作の一番の魅力ではないでしょうか。

刹那:仏教における最小の時間単位、転じて、きわめて短い時間、瞬間

コトバンク より

はじまりのセツナ、明日ちゃんは1年3組のみんなと出会いました。

クラスメイトじゃなく、友達になりたい。1年3組のみんなはお互いにそう思ったでしょうか。

まだなにも知らない同士なのにもう君のことが好き、なのはどうしてでしょうか。

嬉しい気持ちなのに、涙が出ちゃうのは、どうしてでしょうか。

最終回、1年3組のみんなは、明日小路は、この瞬間がずっと続いて欲しいと、時間が止まれば良いのにと思ったでしょうか。

答えを出すことはできません。登場人物たちは全然そんなことを思っていないかもしれません。でも、この作品を見たあなたはどう思ったでしょうか。蝋梅学園のみんなにずっと仲良くいてほしいと思ったでしょうか。私のこの気持ちを、みなさんと共有することができれば幸いに思います。


おわりに

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。要するにこいつは明日ちゃんのセーラー服という作品がめっちゃ好きなんだなということが伝わっていればそれで問題ありません。伝わってない人ははじまりのセツナを100回聞いてきてください。

ところで、ここまで散々オープニングテーマ「はじまりのセツナ」と「明日ちゃんのセーラー服」という作品について語ってきましたが、実はエンディングテーマについても言いたいことがあります。

こちらがそのエンディングテーマ「Baton」になります。


何か気づいたでしょうか。そうです。全員セーラー服を着用しています。蝋梅学園であることは間違い無いでしょう。さらに、エンディングムービーに出てくるキャラクター、本編に登場するキャラクターが一人もいません。そして最後、曲の終わりと同時に先頭の女の子が傘に向かってジャンプしています。彼女の髪の長さからして、本作の主人公明日小路ではないようです。では、このエンディングテーマは一体何なのでしょうか。

・全員がセーラー服を着ている。
・曲名が「Baton」

なんと粋な演出でしょうか。私は正解を知りませんが、想像できることはあります。最高です。アニオタが一番好きな演出です。ありがとう、CloverWorks、ありがとう博先生。

P.S. 明日小路の妹、明日花緒ちゃんはお姉ちゃんが大好きな小学三年生なのですが、物語に出てくる花緒は、小学三年生としての解像度が異常に高いです。声優:久野美咲さんの演技も素晴らしいです。やっぱり『変態』ですね。

五十嵐



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