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2022-005「過疎の街で涙は拭かない」ラジオドラマ脚本0315

うみ(M)夜の海って、不気味。何かが出てきそうだし…。

うみ「もしかして、海亀?」
海亀「お前らのように、簡単に、故郷を捨てることはしないんだよ…」
うみ「ウソ…」
海亀「ワシらの産卵場所も、今回限りかもな。大きな変革の時が来るようだ…」

うみ(M)えっ?なに言ってんの?

うみ「わかってるの?」
海亀「傲慢に生きてきた自分たちを見つめる時間が来たんだ。ただ、望みは捨
   てるな…」

【SE】穏やかな波の音

うみ「津波…望み?」
海亀「どうだろうか?それは、神のみぞ知るだ。そんなこと気にしてどうなる?」うみ「神様はキライ」
海亀「産卵になると、ワシら、生まれた浜に戻る事は知ってるな…」
うみ「水族館で見た」
海亀「産卵時に流す涙の匂いがする砂浜。古い友人と出会える砂浜。この浜があ
   る限り、生まれた浜に…」
うみ「なにそれ?」
海亀「一人で生き抜くのは、辛いぞ。友達や家族があればこそ…」
うみ「うざっ」

【SE】大きな波の音

うみ「言い逃げかよ…」

【SE】県立日和佐高校の授業のチャイム

堅井「徳島!鼻マスク!」
美波「おはよう!」
うみ「あ、美波のPCクラブでさあ…」
美波「やば。鼻マスクだ」

うみ(M)話を最後まで、聞いてよ。マイペースなとこがあんたのよくない
     とこ。あの海亀と同じだよ。

堅井「は〜い、授業に入るぞ!前回からの課題、事前復興について…」

【SE】教室にざわめきが…。

堅井「なんだ、なんだ。やってきてないなんて、言わないよ…、なあ」
美波「するどい!」
うみ「難しすぎなんだもん」
堅井「上井は、何かいい考えがあるような顔つきだぞ…。なんでも、いいんだぞ」美波「学級委員長のお出まし〜」
うみ「馬鹿にするなあ!」

【SE】教室に一陣の風が吹き込む。

堅井「事前復興に関しては、お前たちが主体じゃないと…。未来は、お前らが作
   るんだ」
美波「東京、引っ越す!」
うみ「いいね〜」
美波「だって、瓦礫の山じゃ…住んでいけないもん…」
堅井「おいおい…」
美波「引っ越し、引っ越し」
堅井「そうだな。じゃ、この町は消滅させるしかないなあ…」

うみ(M)友達もいない町になる可能性もあるんだよなあ。寂しい気もする…。

うみ「先生!事前復興って、箱モノを作ることに重点を置くことが正解なん
   ですか?」

堅井(M)箱モノが、必要かどうかも、うみの世代で考えろ。主役なんだか
     らさあ。

うみ「住む場所だよ…」
堅井「家は、行政の考えの中にもちゃんとあるはずだが、お前たちの考えは?」
うみ「社会インフラは、行政の人に任せるとしてか?」
美波「東京、行こう…。うみ」
堅井「インフラは整備されるけど…」

堅井(M)うみたちの気持ちは、やっぱり、都会にしか向かないのか。

うみ「津波が来たら…」

うみ(M)津波から逃げることしか、考えられないや。あっ、思い出した…。

堅井「町はなくなるな。まずは、人が戻れるかどうかが大きな問題になると
   思うが…」
美波「こわいから、イヤ!」
堅井「そうか、わかった。上井、お前はどうする?町に残るか?」

うみ(M)気持ちの問題だよ。大好きなこの海を捨てられるほどの憎悪を持
     ち続けられるのか、どうか?

堅井「いつになく真剣な顔つきだぞ、上井」
美波(笑)「チョーブサイク」

うみ(M)もう、真剣に考えてるのに、茶化すなよ!美波。でも、戻れると
     したら…。

美波「友達のいない町に、未練はないな。毎日、楽しくないじゃん!ねぇ、うみ」

堅井(M)美波、いいこと言うじゃないか。ここで住むには、友達は絶対条
     件だな。

美波「離れ離れには、どうしてもなりたくないよ…」
うみ「…私も、嫌だな」

うみ(M)なにが起こっても、みんなが集まれる場、出来るよ…

堅井「上井、何か思いついたか?さっきのブサイク顔から、いい顔になって
   きたぞ」 
うみ「美波。どうしたの?」
美波(涙声)「想像したらさあ…」
堅井(笑)「泣き顔、人のこと言えないぞ」

堅井(M)涙、忘れるな、美波。一人じゃ、生き抜くことは難しい。極限状況
     では尚のこと。さぁ、うみ、お前は、どうする?

美波「先生にも、再会できるかわからない状況…どうしたらいいんだよ…」
うみ「探し出すさあ、心配するな。クラスメートじゃん…」
美波「そう…、だよね」

うみ(M)あの海亀も、一人は、悲しいって、友達がいればって…。

美波「友達だよね。うみ!」

うみ(M)事前復興って、ずっと、箱モノ作ったり、防潮堤で、津波を防ぐこ
     とばかりだと思ったたけど…。

うみ「海に落ちたダイヤを探すことって難しいよね…」
美波「当たり前じゃん」
うみ「今からさ、絶対、津波が届かないような高台に学校のサーバーを立ち上
   げようよ」
美波「もしかして…」
うみ「それだよ!」
美波「私のクラブのお出まし?」
うみ「この高校の仮想空間。徳島にいなくてもさあ、みんなで話し合える場所
   だよ」

うみ(M)震災当初は、安否掲示板でいいじゃん。そこからクラスを立ち上げ
     てさあ、みんなの安否を確認。できるよね!

堅井(M)二人とも、いい顔になってきたぞ!

堅井「いい案が生まれたようだな」
うみ「県立日佐和高校のサーバーを立ち上げるよ!」
美波「ホヌで行こうよ!」
うみ「ホヌ?」
美波「ハワイで、海亀はホヌって言うんだよ」
うみ「間抜けな感じ」
美波「海の守り神に守られたサーバーだよ。この町にぴったりだよ」
堅井「予算規模とかを試算してみるか?上井、どうだ?やれるか…」
うみ「当たり前じゃん!」

うみ(M)うれしい涙で、この浜をいっぱいにしてやるよ!海亀!帰ってこいよ!

うみ「先祖代々の土地なんだよ!思い出もあるこの土地じゃん」
美波「できる?」
うみ「当たり前じゃん、私たちの過疎の町なんだからさぁ、やりたい放題やら
   せてもらおうよ!」
美波「流石、級長!」
うみ「涙ふけよ!ブサイクだぞ!」
堅井「そうだ、お前らの未来なんだぞ!とりあえず、やっちゃえ!」

【SE】授業終了を知らせるチャイム

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