スペルノーバ 2
初めて「星」を見たその夜から、あの光の虜になった。恋とも違う、初めて抱く感情。とにかくたくさん彼女の姿を目に焼き付けたい。彼女のために日々を費やしたい。
ライブの告知があれば必ずあの公園に出向いた。バイトがある日なら、締め作業でトラブルが起きないよう業務時間中に細心の注意を払った。シフトの数も増やし、週に4日はバイトに勤しむようになった。すべては「星」のため。ライブ終わりには物販がある。「星」から直接買えるわけではないが、「星」のためになることを出来るだけしたかった。だから、彼女のために使うお金が必要なのだ。
「星」と会えるのは夜のライブのみだ。誰も昼間の顔を知らない。詮索しようにも情報が少なすぎるので、ファンは皆、本来ひとりの少女である彼女をアイドルとして「応援」しているし、プライベートを探ることは彼女を傷つけることに繋がりかねない、と考えている。もちろん僕もその1人だ。毎日彼女のことを考えているが、次はどんな衣装だろう、とか、何の曲を歌ってくれるのだろう、とか、アイドルである「星」のことばかりが脳内を占領する。自分でもよく分からないが、おそらく「星」は僕らを楽しませてくれるからこそ「星」だと認識しているのではないかと思う。何にしろ、傷つけたくない大切な存在ができたことは確かだ。
バイト仲間からは「最近変わったね」と口々に言われる。詳しい事情を話すのはなんだか恥ずかしいので、必ず「欲しいものがあるから」と返すようにしている。嘘ではない。
ただ、バイトばかりで授業にさらに出席しなくなった。特段問題はない。
ピロリン。
ほら、何かがあると、
『明日って刑法の中間テストなかったっけ!?』
こうして学科のグループLINEで話題になるからだ。テストがあるのか。有識者の返信を待つ。
既読が10を超えたところで、
『そうだよ!テキストの140~160ページの範囲だって言ってた!』
という確かな情報を伴った返事が寄越された。本当に助かる。文明の利器に感謝をして、ベッド横に積みあがったテキストを引っ張り出した。
翌日、実に1週間ぶりに授業に出た。テストは順調に解くことができ、開始から30分後に提出と退室を認められた。
周りに迷惑にならないよう荷物をまとめ、上着を羽織ろうとしたその時、教室前方のドアから出て行く女子学生が目に入った。
細い体、白い肌、艶のあるセミロングの黒髪ストレート。
僕は上着を着終えないうちに、足早に教室を後にした。
先に廊下を歩く女子学生。僕はその背中に向かって声をかけた。
「あのっ」
「『星』、ですか?」
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